老眼は45歳程度で始まるので、自分自身も老眼が始まり、「老眼とはどういうものか」は実感として分かります。加齢性の難聴は60代から徐々に始まりますが、実際に問題になるのは70代以降。統計的には70代で半数、80代で70%が難聴というデータもあります*1。
*1 内田育恵ら「全国高齢者難聴者推計と10年後の年齢別難聴発症率:老化に関する長期横断疫学研究より」日本老年医学会雑誌 2012;49(2):222-227.
高齢者は高音域が聞こえにくい
加齢性の難聴になると、すべての音が聞こえなくなるかというとそういうわけではありません。高音域の音は聞こえにくくなりますが、低音域の音は聞こえます。低い音(500㎐)と比較すると、高音域(2000㎐)を聞き取るには1.5倍の音量が必要というデータもあります*2。
*2 立木孝ら「日本人聴力の加齢変化の研究 Audiology Japan. 2002;45(3):241-250.
このため、よく高齢者は「こちらの要求は聞いてくれないのに悪口は聞こえる」と言われます。これには理由があるのです。要求をするときは声を高く張り上げて相手に話しかけることが多いですよね。そのため高音になり聞こえにくい。けれども悪口は周りに聞こえないようにひそひそと低い音で話すので、高齢者には聞きとりやすくなるわけです。
また、若い女性の声も高くて聞こえにくくなるので、「息子の声は聞こえるけれども、息子の妻の声は聞こえない母親」というのも珍しくないわけです。こうしたことが「嫁姑問題」を複雑化させているケースをよく見かけます(ただ、これには諸説あり、人の声の音域なら問題ないとも言われていますが、1つの説として参考にしていただければと思います)。
また、高齢者は高音域が聞こえにくいのに、街中ではアナウンスに若い女性の声が多用されます。私はつくづく、世の中は高齢者に合わせていないな、と感じます。
低い声で・ゆっくりと・正面から
では、耳が遠くなった高齢者には、どのように話せばいいのか。「低い声で・ゆっくりと・正面から」話しかけるのが基本になります。
医療の現場でも、女性看護師が大声で一生懸命話しても聞こえない高齢者が、男性の私がゆっくり低い声で話すと聞こえるということがあります。また、雑音が多い場所でほかの音とより分けて必要な言葉を聞くことも、高齢になると不得意になります。ざわざわした場所での声かけは、思っている以上に聞き取りにくいと理解したほうがよいでしょう。