道長の辞表をしばらく預かっていた三条天皇の「本意」

 道長自身も風当たりの強さを感じたからか、あるいはそれほど病状が重かったのか。病に伏せてしばらくすると、三条天皇に辞表を提出。内覧と左大臣から辞する旨を伝えている。

 かつて、道長は一条天皇にも辞表を出したことが何度もあった。その時はすぐさま返却されているが、三条天皇は6月4日に奏上された道長の辞表をしばらく預かってから、7月8日に返却している。

 ドラマでは、三条天皇が道長の辞表を見て「返したくないがのう」とつぶやく場面があった。先例に従い辞表を返却したものの本意ではなかったという描写は、2人の関係性をよく表していたように思う。

 ドラマの終盤では、病が重くなり死期さえも近そうな道長のもとに、まひろ(紫式部)が訪ねてきた。一緒に川辺を歩きながら、お互いに「あなたに先に死んでほしくない」という思いをぶつけ合い、道長は涙する。

 次回放送は「輝きののちに」。ここからは心身ともに疲弊した道長が復活し、三条天皇に退位を迫る。どのような展開が繰り広げられるのか注目したい。

NHK大河ドラマ『光る君へ』で藤原道長役を熱演する俳優の柄本佑さん藤原道長役を熱演する俳優の柄本佑さん(写真:共同通信社)

【参考文献】
『新潮日本古典集成〈新装版〉紫式部日記 紫式部集』(山本利達校注、新潮社)
『藤原道長「御堂関白記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫)『藤原行成「権記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫)
『現代語訳 小右記』(倉本一宏編、吉川弘文館)
『紫式部』(今井源衛著、吉川弘文館)
『藤原道長』(山中裕著、吉川弘文館)
『紫式部と藤原道長』(倉本一宏著、講談社現代新書)
『三条天皇―心にもあらでうき世に長らへば』(倉本一宏著、ミネルヴァ日本評伝選)
『偉人名言迷言事典』(真山知幸著、笠間書院)

【真山知幸(まやま・ともゆき)】
著述家、偉人研究家。1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年より独立。偉人や名言の研究を行い、『偉人名言迷言事典』『泣ける日本史』『天才を育てた親はどんな言葉をかけていたか?』など著作50冊以上。『ざんねんな偉人伝』『ざんねんな歴史人物』は計20万部を突破しベストセラーとなった。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義、宮崎大学公開講座などでの講師活動も行う。徳川慶喜や渋沢栄一をテーマにした連載で「東洋経済オンラインアワード2021」のニューウェーブ賞を受賞。最新刊は『偉人メシ伝』『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』『日本史の13人の怖いお母さん』『文豪が愛した文豪』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』『賢者に学ぶ、「心が折れない」生き方』『「神回答大全」人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー』など。