トランプ氏が圧勝した米大統領選。トランプ第2次政権を前に、気になる政策が浮上している。それは「ドル離れ制裁」。基軸通貨としてのドルの強さを保つため、ドル離れを図る新興国に対する経済制裁である。具体的には、どのようなものなのだろうか。(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
歴史的な接戦になると予想された2024年の米大統領選だが、ふたを開けてみれば、共和党から出馬したドナルド・トランプ元大統領が予想外の大差を持って大統領の座に返り咲く見通しとなった。大統領経験者が落選後に返り咲けば、第22代と第24代を務めたグロバー・クリーブランド大統領(1837-1908年)以来、132年ぶりのことだ。
合わせて実施された連邦議会選でも、共和党が勝利して上院の議席の過半数を回復することになった。下院も制する公算が大きく、いわゆる「トリプルレッド」(大統領と議会の上院、下院のいずれも共和党が制する状態)になることがほぼ確実な情勢である。これでトランプ大統領が掲げる公約がスムーズに法制化される可能性も高まった。
トランプ新大統領は様々な公約を掲げているが、そうした公約と距離を置き、通貨行政の観点から、トランプ大統領の下で進む可能性がある政策について解説してみたい。
その政策とは、新興国の中で「ドル離れ」を図る国に対する制裁だ。ドル離れとは、米ドル以外の手段を用いて貿易・金融を行い、ドル依存を軽減する取り組みを意味する。
ドル離れは様々な国で試みられているが、その筆頭は中国だろう。自国通貨である人民元の国際化を志向する中国は、独自の決済網である人民元貿易・金融システム(CIPS)の拡大に野心を燃やしている。一方で中国は、2015年に生じた人民元ショック以降、その国際化には必須となる資本規制の緩和には慎重となっている。
また、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻以降、多くの新興国がドル離れの取り組みを加速させていることも事実である。米ドルに依存し過ぎると、米国から制裁を科された場合に貿易・金融が滞り、経済が強く圧迫されることを警戒してのことだ。こうしたドル離れの動きを、トランプ新大統領は極めて嫌っていたことでも知られる。