(ライター、構成作家:川岸 徹)
石川・国立工芸館をはじめ、アメリカや日本各地を巡回してきた「ポケモン×工芸展ー美とわざの大発見ー」。新作を加え、東京・麻布台ヒルズギャラリーで開幕した。
世界を席巻、ポケモンと工芸
日本のポップカルチャーを代表するコンテンツ「ポケモン」。株式会社ポケモンが発表した2024年3月末現在の全ポケモン関連ゲームソフトの累計出荷本数は4億8000万本以上。カードゲームの累計製造枚数は648億枚以上。テレビアニメの放送地域数は、世界192の国と地域に及んでいる。
2019年にはハリウッドで制作されたポケモン初の実写映画『名探偵ピカチュウ』が公開され、興行成績4億3300万ドルの大成功。米国の金融系企業TITLEMAXが2024年に発表したIPコンテンツの収益TOP25ランキングでは、ポケモンが総収益921億ドル(約13兆5000億円)で、「ハローキティ」「くまのプーさん」「ミッキーマウス」を抑えて1位に輝いている。日本生まれの「ポケモン」は、今や世界の「POKÉMON」だ。
一方、「工芸=KOGEI」も世界共通語として定着しつつある。1995年に石川県金沢市が「世界工芸都市宣言」を発表。これをきっかけに、それまで「CRAFT(クラフト)」と英訳されることが多かった工芸が、そのまま「KOGEI」という言葉で紹介されるようになった。今では海外で「KOGEI」展が開催されることも珍しくない。高い技術力と品質、そして魅力的なデザイン。工芸の魅力とともに、言葉も世界に認知されるようになったのは、日本人として誇らしい。
どんなかがく反応が起こるのか?
そんな「ポケモン」と「工芸」という日本を代表する強力コンテンツを掛け合わせたとしたら、どんなかがく反応が起きるだろうか。そうした発想から、ユニークな企画が立ち上がった。2023年3月から6月まで石川県・国立工芸館にて開催された展覧会「ポケモン×工芸展ー美とわざの大発見ー」だ。
この前例のない企画に人間国宝から若手作家まで20名のアーティストが賛同。ポケモンをテーマに、工芸の多種多様な素材と技法を用いて作品の製作に挑んだ。陶磁器、染織、漆器、木竹工、金工、人形、七宝、紙工……。工芸の卓越した技によって生まれた約70点の作品は驚きとともに、ポケモンの世界の新しい可能性を見せてくれた。
国立工芸館での会期終了後、展覧会は海を渡り、アメリカ・ロサンゼルスに巡回。その後、日本へと凱旋帰国し、滋賀県・佐川美術館、静岡県・MOA美術館での展示を経て、11月1日から麻布台ヒルズ ギャラリーで東京展が始まった。いずれの会場も大盛況。週末であれば入場まで1時間以上の待ち時間も珍しくないという。なぜ、展覧会はこれほどの成功を収めているのか。