公共交通へのショートカットも検討できる
さらに応用すると、計算に使う道路ネットワークも、実は地図上に表現できるものの一つである。
今はない道路を追加して計算しなおせば「ここにこんな歩行者用ショートカットをつくったらサービス水準が高くなる人口がこれくらい増える」といったように、ポテンシャル検討のためのシミュレーションができる。
ほかにも地図上に示すことができる情報はさまざまあるが、いずれにしてもポイントは「重ね合わせ」によってポテンシャルを引き出す方法を考えるために、PTSQCが便利なツールであるという点である。
実際の作業は地理情報システム(GIS)を使うのが一般的で、GIS上で扱うことができる情報であれば何でも重ねて検討につかえると考えて差支えない。
「自転車移動だと?」「横断歩道や街灯はある?」地図に示しきれない課題も
現行の評価指標の限界もある。一つは坂道(勾配)が表現できないことである。
これは、同じくGIS上で取り扱いが可能なデジタル標高モデル(DEM)から道路の勾配を計算して、駅や停留所までの間の往路・復路のどちらかに急こう配の場所がある場合は、補正するという方法で対応できる。
これは筆者の指導の下で、ウィーン工科大学の修士号を取得したルーカス・クレンメル氏が考案した補正手法だ。
以下の図はオーストリア西部の中山間地であるブレゲンツァーヴァルド地方を例にしたものだ。補正前(上)よりも、補正後(下)のほうがより実感に近くなる。
もう一つの限界は、あくまで徒歩が基準であるため、自転車での駅や停留所への到達が表現できないことである。
これは、スポーツ科学の知見を取り入れつつ、オーストリアの連邦政府(国)の研究機関の手により、開発が進められている。
また、道路が実際に歩くのに適しているかどうかも、現在の方法では加味されていない。道路があるといっても、安全な歩道や横断歩道が満足に整備されていないケースもある。
この分析には、歩道ネットワークのデジタル地図データが欠かせないが、このあたりはデータ整備の課題である。
また、PTSQCが暗に前提にしている事柄がある。それは公共交通が安全で時間に正確で、清潔で快適でバリアフリーも整っているという点である。
スイスやオーストリア、それに日本では、これらの点は割とよく満たされているか改良が進んでいるが、満たされていないところでは、この辺りを別の方法で指標化する必要がある。