巨額資金提供の背景に「火星植民地化」計画?

 マスク氏は今年7月、公式にトランプ前大統領への支持を表明した。その後、トランプ氏は9月初旬、「すばらしいビジネスマン」であるマスク氏を「政府効率化委員会」のトップに任命すると公言した。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は10月21日に掲載した記事の見出しに「マスク氏・政府効率化委員長就任に向け100万ドルばらまき」と掲げた。

 湯水のごとく金を投じてトランプ氏を支持するマスク氏の狙いについて、英ガーディアン紙は22日のコラムで「いつものアレ。金と権力」と書いている。莫大な富と「名声」を得たマスク氏が欲するのは米政権でのさらなる影響力であると見られる。

スペースXは「箸」によるロケットの回収に成功するなど高度な技術力を獲得しているが…(写真:AP/アフロ)

 米ニューズウィーク誌などの報道によれば、米電気自動車(EV)大手テスラなど、マスク氏傘下の複数の企業が、バイデン政権になってから差別問題や安全性、環境に関するコンプライアンスなどに関して連邦当局などによる厳しい調査対象になっている。同誌はまた、規制制度の削減を公約しているトランプ氏が再選されれば、マスク氏の事業を利する可能性に言及している*3

*3How Joe Biden Drove Elon Musk Into the Arms of Donald Trump(Newsweek)

 例えば、マスク氏による熱烈なトランプ氏支持の背景には、マスク氏悲願の「火星の植民地化」があるのかもしれない。

 7月に米ニューヨーク・タイムズ紙が組んだ特集では、マスク氏が今年4月、自身が所有するスペースXの社員に、この20年以内に火星に100万人を居住させると発言したとされている。同紙によればマスク氏は、火星での都市設計に関する詳細な調査を指示しているという。

 また、火星の過酷な環境に耐え得る宇宙服の開発や、火星で人類が生息できるのかを調べるため、自身の精子まで提供したと報じた。マスク氏は後段の情報について、記事掲載後に否定している*4

*4Elon Musk’s Plan to Put a Million Earthlings on Mars in 20 Years
(The New York Times)

 同紙によると、アメリカ航空宇宙局(NASA)は、火星に人を送るだけで2040年までかかると見ており、火星に対するマスク氏のビジョンは極端かつ、不合理だとしている。他方、スペースXは、従業員の安全管理について深刻な問題も指摘されている。ロイター通信は昨年11月、手足の切断や感電死などを含む、スペースXでの従業員の負傷や事故死の実態を詳報した。当時、その数は少なくとも600件に上るとされていた*5

*5At SpaceX, worker injuries soar in Elon Musk’s rush to Mars(REUTERS)

 マスク氏はかねてより「火星で死にたい」と公言してきた。火星進出を猛烈に早めたいマスク氏にとって、スペースXにまつわる安全性や環境問題を監視する規制当局は、好ましくない存在なのではないだろうか。マスク氏がトランプ氏に莫大な金銭的支援を行うことは「(マスク氏の)ビジネスにおける政府の干渉を排除するための投資」と分析する専門家もいる*6

*6How Elon Musk could benefit from a second Trump presidency(BUSINESS INSIDER)

 スペースXに加え、同じくマスク氏傘下のテスラの自動運転システムでも事故はたびたび起きており、米連邦当局が調査に乗り出している。その危険性についてはWSJ紙が今夏調査報道を行なっている*7

*7Inside the WSJ’s Investigation of Tesla’s Autopilot Crash Risks(The Wall Street Journal)