在イスラエル米大使館移転はメガドナーの影響か

 スペースXならびにテスラの事故が、トランプ氏が評価しているマスク氏の「コストカッター」としての手腕によって引き起こされているかは不明だ。しかし、マスク氏が2022年に買収したSNSプラットフォームのXについては、ユーザーの安全を守る「モデレーター」の数を大幅に減らしたことが、ヘイトスピーチや偽情報を野放しにする結果となったのではないかという指摘が根強い。

 マスク氏が100万ドルプレゼントを発表したトランプ陣営のタウンホール・ミーティングに参加した女性はWSJ紙の取材に応え、トランプ氏が当選しマスク氏が政府効率化委員会のトップに任命されれば、政府の人員が半減するだろうとし「最高だ」と話している。

 だが、本来市民の生活を守るための公的サービスを担う人員がカットされ、それによりXで起きたことと同じように安全が脅かされる危険性は、全くないと言い切れるだろうか。

 マスク氏はまた、規制の多さも目の敵にしてきた。CNNはマスク氏が、自身が手がける事業に関わる規制について、不要な官僚主義などと激しく非難してきたと伝えた。ビジネス界からの規制に対する不満は珍しくはないものの、マスク氏はルールを回避したりねじ曲げたりするアプローチをしており、異質な存在だとしている*8

*8Elon Musk says he’ll fix the government under Trump. His track record paints a different picture(CNN)

 こうした姿勢のマスク氏が次期米政権において多大な影響力を持つことになれば、市民の安全を守るための規制が、危険なレベルにまで削減されてしまうことが全くないとは言い切れないだろう。

 実際、過去の米大統領選では、候補者への巨額の支援が政策に影響を及ぼしてきた。米ワシントン・ポスト紙は今回の大統領選において、マスク氏のように多額の資金を自身の支持する陣営に投じた「メガドナー」をリストアップしている*9

*9Meet the megadonors pumping millions into the 2024 election(The Washington Post)

メガドナーの一人、ミリアム・アデルソン夫人(左)と親密な関係にあるトランプ氏。ガザ紛争激化から1年、トランプ氏所有のゴルフ場でのイベントにて=2024年10月7日撮影(写真:AP/アフロ)

 この中で、共和党に約1億3500万ドルもの資金を投じた女性がいる。ミリアム・アデルソンという女性だ。医師であり、富豪だった実業家の未亡人だ。アデルソン夫人は、現在世界で最も裕福な女性の一人と言われている。2018年、当時のトランプ大統領によって大統領自由勲章まで授与された*10

*10The Pro-Israel Donor With a $100 Million Plan to Elect Trump(The NewYork Times)

 アデルソン夫人は、テルアビブ生まれのイスラエル人でもある(米国籍もあり)。2021年に死去したユダヤ系米国人の夫と共に猛烈なイスラエルおよびユダヤ系の支持者として知られた。2018年、トランプ前大統領は在イスラエル米大使館をエルサレムに移転した。エルサレムは、アラブ人にとっての聖地でもあり、パレスチナ国家樹立の暁には東エルサレムが国の首都ではならないとしている。そのため、この大使館移転は大騒動になった。

 この大使館移転の背後に、アデルソン夫人の影響力があったと言われている。トランプ氏は2016年の大統領選で大使館移転を公約に掲げていたが、それをトランプ氏に直訴したのがメガドナーのアデルソン夫妻だったとされている。大使館移転に関し、アデルソン氏らからトランプ氏への見返りとして提示した金額は、当初2000万ドルにも上ったとも報じられている。