文献によって異なる一条天皇の「辞世の句」

 一条天皇が崩御し、いよいよ三条天皇の治世となった。

 一条天皇の辞世の句は文献によってやや異なる。道長の日記『御堂関白記』では「露の身の 草の宿りに 君をおきて 塵を出でぬる ことをこそ思へ」となっている。意味は次のようなものだ。

「露の身のような私が、草の宿に君を置いて、塵の世を出ることを思う」

 ところが、『権記』のほうでは、「草の宿に」が「風の宿りに」となり、結びの句も「ことぞ悲しき」と異なっている。「残された君を思う」という大意は変わらないが、この「君」を道長は「彰子」、行成は「定子」と解釈したようだ。

 ドラマでは、この結びの句が異なるところに着目。「最後の部分を本人が力尽きて言えなかった」とする演出にはうならされた。

 早いもので最終回まで2カ月を切ったが、文献での記述を踏まえることでより楽しめるのが今回の大河ドラマの特徴と言えそうだ。ぜひドラマと合わせて、当連載も引き続きお楽しみいただきたい。

【参考文献】
『新潮日本古典集成〈新装版〉紫式部日記 紫式部集』(山本利達校注、新潮社)
『藤原道長「御堂関白記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫)『藤原行成「権記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫)
『現代語訳 小右記』(倉本一宏編、吉川弘文館)
『紫式部』(今井源衛著、吉川弘文館)
『藤原道長』(山中裕著、吉川弘文館)
『紫式部と藤原道長』(倉本一宏著、講談社現代新書)
『偉人名言迷言事典』(真山知幸著、笠間書院)

【真山知幸(まやま・ともゆき)】
著述家、偉人研究家。1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年より独立。偉人や名言の研究を行い、『偉人名言迷言事典』『泣ける日本史』『天才を育てた親はどんな言葉をかけていたか?』など著作50冊以上。『ざんねんな偉人伝』『ざんねんな歴史人物』は計20万部を突破しベストセラーとなった。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義、宮崎大学公開講座などでの講師活動も行う。徳川慶喜や渋沢栄一をテーマにした連載で「東洋経済オンラインアワード2021」のニューウェーブ賞を受賞。最新刊は『偉人メシ伝』『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』『日本史の13人の怖いお母さん』『文豪が愛した文豪』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』『賢者に学ぶ、「心が折れない」生き方』『「神回答大全」人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー』など。