半ば予想した答えだった。推測するに、誰かが吾郎さんを養子で貰ったという細工をするために、ここに住んでいた夫婦を利用したのだろう。

 こうなれば、小女姫さんと交際していたとされる歯科医のXさんに取材をかけなければならない。気が重い取材であるが、頭の中で想定問答を何度も繰り返し、名古屋の歯科医院の裏手にあった自宅の呼び鈴を鳴らした。インターホンに出たのがお手伝いさんなのか看護師さんなのかは分からないが、Xさんに会いたいことを伝えると、しばらくしてXさんが玄関口に姿を現した。

歯科医を直撃

 筆者はこちらの事情を説明し、単刀直入に聞いた。

「藤田小女姫さんとお付き合いをしていましたよね」

 事情を把握しきれていないXさんは筆者の顔を見たまま困惑している様子だったが、

「いえ、知りません」

 と答えた。

「一緒に食事をしたこともありませんか?」

 いろいろと角度を変えて質問を繰り返した。

 Xさんは〈何も知らないくせに、お前なんか帰れ!〉などとは言わず、筆者の質問に対して真摯に対応してくれた。ただし、小女姫さんとの交際を認めることはなかった。それでも、長年の取材経験からすると彼女との間に“何かがあった”という感覚は持った。

 ただ、本人が認めない以上は記事にすることはできない。押し問答を何度も繰り返したが一向に埒があかない。

「小女姫さんは、妊娠・出産すると霊感が失われるということで、世間に対して、吾郎さんのことを自分が生んだ子ではなく養子だということにしていたようです。まあ、時代の流れに逆らうことが出来なかったのでしょう。亡くなってしまいましたが、ある意味、可哀そうな人生だったのかもしれません」

 Xさんは黙って筆者の言葉に頷いていた。

 筆者は続けた。