ただ事件には解明されていない点がいくつもあった。
小女姫さんは殺害される直前に、旧知の地元銀行の幹部に「どうしても必要なので2万ドルを用立てして欲しい」と電話を入れている。その時の様子が尋常でなく、誰かに脅されているのではないかと推測したその知人が日本領事館に連絡を取り、領事館員が小女姫さんのマンションに駆けつけたところ、ボヤが起きていた。消防隊員が消火後、射殺された死体を発見している。
息子の吾郎さんが誘拐され小女姫さんは身代金を要求されていたのではないかとも推測されたが、その謎も解明されていない。また2人の殺害事件についても、いくつかの状況証拠はあるものの、福迫自身は犯行を否定している。真相は不明のままだった。
事件解明に入ることもできない筆者はモヤモヤした気持ちを引きずりながら、そのほかの様々な事件を追いかけていた。
ちょうどそのころ、かつて欧州で知り合った貿易商の男性Aさんと都内で会食する機会があった。当時Aさんは50代前半。Aさんの詳しい経歴は知らなかったが、久しぶりに会ったところ「その昔、藤田小女姫さんの秘書をしていたんです」と打ち明けるので、筆者は飛び上がるほど驚いた。
小女姫さんが射殺されたハワイの事件に興味があることを伝えると、Aさんは小女姫さんの“ある秘密”を打ち明けてくれた。
出産すると霊感が失われる?
「占い師というのは大体が女性でしょ。それは女性のほうが霊感が強いというのが大きな理由です。しかしその霊感は、子どもを産むと消えてしまう。これがこの世界の常識です」
筆者のまったく知らない世界の“常識”であった。しかし小女姫さんには吾郎さんという一人息子がいて、彼も射殺されたではないか。
そうAさんに問うと、
「ご存知でしょう。吾郎さんは、まだ赤ちゃんの時に小女姫さんに養子として引き取られたんですよ」
という。確かに、吾郎さんが小女姫さんの養子であることは、当時から一部で知られていた。
筆者は続けて聞いた。
「じゃあ、小女姫さんの霊感は守られていたっていうことですね」
「いやいや、そうではないんです」
笑いながらもAさんは周囲を見渡してから、筆者の耳元で囁くように喋り始めた。