過去の新総裁誕生時はご祝儀相場になったか

 では、首相を選ぶことになる政権与党の総裁選や代表選は株式市場のご祝儀相場につながっているのでしょうか。

 2001年4月の小泉純一郎総裁の誕生以来、今回の自民党総裁選を含め、政権与党のトップを選ぶ党内選挙は9回行われています。その翌営業日の日経平均株価を見ると、上昇したのは小泉氏のほか、安倍晋三氏(2006年9月)、福田康夫氏(2007年9月)など計5回。一方、値下がりしたのは、民主党の菅直人氏(2010年9月)、今回の石破氏ら計4回でした。

 ご祝儀相場の出現する割合は半々に過ぎず、ご祝儀でいつも株価が上がると言える状況ではありません。その意味では「新首相・新政権のご祝儀相場」は都市伝説に近いと言えるでしょう。しかも、近年では菅義偉氏を選んだ2020年以降、自民党の総裁選では3回連続で株価は下落しています。

 むしろ、政治でのご祝儀相場とは、株式市場の値動きではなく、新政権発足直後の内閣支持率が上向くことを指すようになってきました。首相が交代し、政権のメンバーが一新されると、清新さへの期待感などから支持率の上昇がしばしば生じます。

図:LINEヤフーのビッグデータレポート、共同通信社の世論調査データなどからフロントラインプレスが作成
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 同様の傾向は、例えば、米国でも見られます。新政権発足からの最初の100日間は「ハネムーン期間」と呼ばれ、日頃は大統領に厳しい姿勢を示す米メディアや野党も新政権に対する批判を手控え、「お手並み拝見」とばかりに動向を見守る習慣があります。その間は国民の支持率も高く、ご祝儀的な色彩が濃く現れています。

 日本でもそうした傾向は強く出ており、新政権発足後は期待感も込めて、前政権の末期よりは支持率が高くなるケースが大半です。このため、永田町では「ご祝儀相場で支持率が高く出ただけ」「ご祝儀相場の影響が残っているうちに国政選挙に臨みたい」といった言葉が普通に交わされるようになりました。

 今回の石破政権発足に関しても同様です。

 石破政権が誕生した直後、読売新聞は緊急全国世論調査を実施しました。石破内閣の支持率は51%。その結果を報じた同紙10月3日朝刊は「新内閣発足の『ご祝儀相場』としては限定的で、27日投開票の衆院選に向け、警戒感も続いている」と伝えています。

 また、同じ日の朝日新聞も石破首相が早期解散に踏み切った事情について、「ご祝儀相場」の語句を使いながら次のように報じました。

「派閥の裏金事件からの党勢回復がかかる次の衆院選は、政権発足から近いほど『ご祝儀相場』が見込める。10月27日は自民党の『不戦敗』が濃厚の参院岩手補選があり、新政権に冷や水を浴びせかねない。『今しかない』という与党の期待を前に、立ち止まって熟慮する余裕は石破氏にはまだなかった」

 果たして今回の衆院選で、“ご祝儀相場効果”は自民党の期待通りに現れるのでしょうか。

フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。