――それにしても建国から75年、なぜ中国は秘密主義を守り続けているのでしょう?
周俊:歴史、理念、そして現実。この3つの視点から解釈できます。
第一に歴史ですが、中国共産党は1921年の結党直後から地下組織として活動してきました。秘密裡に仲間を増やし、勢力を拡大し、最終的には天下を取りました。秘密主義の成功体験があるわけです。秘密主義はプラスであり情報公開はマイナスだという考えが刷り込まれたわけです。
中国には国家保密局という政府部局、中央保密委員会という中国共産党内組織があります。秘密保持の業務を担当する組織ですが、その公式サイトでは「不忘初心」(初心を忘れず)という言葉がよく使われます。彼らにとっての初心とは秘密主義のこと、秘密主義の堅持に高い価値が置かれているのです。
第二に理念です。1930年代ごろから中国共産党は旧ソ連から多くを学ぶようになっていきます。重要な教科書となったのが『ソ連共産党(ボリシェヴィキ)歴史小教程』という本です。特に毛沢東は大きな影響を受けました。
『ソ連共産党(ボリシェヴィキ)歴史小教程』を読むと、「スパイ」という言葉が頻出します。帝国主義者が社会主義政権の転覆を狙う際に使う主要な手段こそがスパイであり、それを防がなければならないと強調されています。中国共産党はこの本通り、神経質にスパイ対策に取り組んだわけです。ある種、陰謀論的ではありますが、冷戦期に盛んにスパイ工作が行われたことも事実です。それが被害妄想と刺激し合った結果、陰謀論はすべて現実だという強迫観念が形成されました。
そして、最後に現実です。中国共産党の権力維持のためには秘密主義はきわめて重要なのです。党内の情報を大量に公開すれば、一党支配は維持できなくなるでしょう。秘密を保ち続けることが一党独裁を続けるための大前提なのです。
――中国共産党の秘密主義は強まっているのでしょうか? 習近平総書記が提唱する総体的国家安全観では軍事だけではなく、経済、文化、技術、環境などあらゆるものが安全保障となり、関連する情報が国家機密と指定されるという恐れがあります。友人の日系証券会社アナリストによると、国有企業へのヒヤリングも国家機密流出として処罰されかねないと断られることが増えたといいます。
周俊:海外からの視点では秘密保持強化ばかりが取りあげられますが、これを逆手に取って情報公開の動きに注目したらもっとおもしろいかもしれません。例えば、2017年には中国共産党党務公開条例が制定されました。その10年前の2007年に政府情報公開条例が制定され、政府機関の情報公開に関するルールが定められましたが、やっと党の情報公開に関する法律ができました。
秘密主義強化と情報公開のルール作りが同時に行われていることは注意すべきでしょう。ただし、秘密主義の根幹は変わっていません。
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