「So What?」が示すトランプの自己中心主義

 もう一つ、連邦最高裁の7月の決定(大統領当時の言動は大統領特権であり、訴追対象とならないという判決)で矛先が鈍っていたワシントン連邦地裁に新たな動きが出てきた。

 トランプ氏は2023年8月、「国家を欺くための共謀」など4つの罪で起訴されたが、大統領在任中の公的な行為は訴追を免れる「免責特権」が適用されると主張してきた。

 連邦最高裁は今年7月、これを一部認める形で、選挙結果を覆すよう圧力をかけたとされる司法省高官らとのやり取りは「免責される」と判断。

 州当局者らに圧力をかけたことなどについては公的な行為かどうかを判断するよう地裁に差し戻した。

 これを受けて、同事案を追及してきたジャック・スミス特別検察官は再調査し、新たな証拠を基に165ページからなる報告書をターニャ・チュトカン判事に提出、同判事がこれを公表したのだ。

 これには、2020年の大統領選で敗北した結果を覆そうとしたとされるトランプ氏の言動や、暴徒化した群衆の動きを約3時間にわたり見て見ぬふりをしていた詳細が記されている。

 特に議会に赴き、大統領選の集計結果を「儀礼的に認証する」マイク・ペンス副大統領(当時)を暴徒たちが「絞首刑にしろ」(Pence’s hanging!)と叫びながら捜し回っているという情報を入手、その後、側近から「ペンス氏を助けてほしい」と促されても「だから何だ?」(So what?)と意に介さなかったとも記されている。

 トランプ氏が午後1時30分から始まった議会占拠を黙認し、午後4時17分になるまで暴徒たちに「ゴーホーム」とは言わなかったという。

 つまり、「儀礼的作業」をするなと命じたにもかかわらず、実行した自分の副大統領が危害を加えられそうになっても、知ったことかという冷静さを欠いた同氏の行動が明らかになったのだ。

 スミス特別検察官は、バイデン大統領の当選を正式に認証する議会の手続きを妨害するため「多数の怒った支持者の群衆を焚きつけ、煽るために(選挙不正の)嘘を利用した」とし、トランプ氏が議会占拠事件を扇動したことを起訴理由に挙げている。

 これは大統領の免責特権の対象にはならないという判断に立っている。

 書面の記述の多くはすでに報道などで明らかになっていたものが多く、選挙戦への影響は不透明だが、ワシントン・ポストはこう分析している。

「難しい裁判の成り行きやトランプ氏が抱えている4つの刑事訴訟を知っている有権者はそれほど多くはない」

「だからこそ、そこで露呈した当事者の一言が、有権者の一票には微妙な影響を与える」

「その一つがSo What?だ」

washingtonpost.com/jack-smith-filing-trump-immunity-jan-6/

 2016年9月、ヒラリー・クリントン民主党大統領候補がトランプ氏の支持者たちを「嘆かわしい連中の入った籠」(Basket of deplorables)と言った一言が、支持率の急降下に繋がった。

 クリントン氏の上から目線の傲慢さを有権者は鋭く察知したのだろう。

washingtonpost.com/jack-smith-filing-trump-immunity-jan-6/

 4年間自分を支えてくれたペンス氏を見捨てた一言。トランプという人間の本性を見た有権者も少なくないだろう