ウクライナに供与が始まった「F-16」戦闘機はロシアにとって大きな脅威になり始めている(写真は8月9日太平洋上での訓練、米国防総省のサイトより)

核兵器使用の敷居下げるロシア

 ウクライナを侵略中のロシアは、当初の戦略目標を達成できないばかりか、ウクライナによるクルスク州への越境攻撃やロシア領内の武器弾薬庫などを目標とした無人機(ドローン)攻撃など戦況が混沌とする状況に直面している。

 そのため、核兵器使用の敷居を一段と下げるドクトリン(基本原則)の見直しを行ったようである。

 ウクライナに対する核による脅しを一段と強め、また西側諸国の支援、特に長距離ミサイルの使用条件緩和を阻止するとともに、米国を中心とするNATO(北大西洋条約機構)加盟国を分裂させることを意図した新たな試みと見られる。

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は9月25日、核兵器使用に関する基準を緩和する方針を明らかにした。

 同大統領は「核兵器保有国の参加や支援を受けている非核保有国によるロシアへの侵攻をロシア連邦に対する合同の攻撃とみなす」と表明した。

 その上で、航空機やミサイル、ドローンを使った大規模なロシア領内への攻撃を察知した場合、ロシアは核兵器を使う可能性を検討すると言明した。

 そして、ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は9月29日、国営テレビで「(核兵器使用に関するドクトリンの)修正案は準備されており、これから正式に決定される」と述べた。

 今回のドクトリン見直しは、現在進行中の戦争でウクライナに武器を供与しているNATO加盟国を明らかに標的にしたものだ。

 特に、西側が供与した長距離ミサイルでウクライナがロシア領内深部を攻撃することを許せば、ロシアが核兵器使用の可能性を検討すると表明することで、改めて「レッドライン」を示し、威嚇・強制を強める狙いがあるとみられている。

 なお、この背景には、ロシアの危険な核の威嚇・強制に関する言説が常態化し、国際社会の反応がまちまちになったことが指摘されている。

 米国の戦略国際問題研究所(CSIS)のヘザー・ウィリアムズ氏(核問題プロジェクトのディレクター兼国際安全保障プログラムのシニアフェロー)の論考「ロシアが今核政策を変更している理由」(2024年9月27日発行)によると、今年初めのCSISの調査では、ウクライナ戦争の文脈でロシア指導者が核兵器に言及した事例が200件以上あるという。

 こうした度重なる行為は、国際社会では威嚇と強制の手法に過ぎないという認識が広まりつつあるからだ。

 また、専門家の間では、ウクライナにロシア領内への越境攻撃を許したのは、ロシアの核抑止が有効に機能していないからだとの指摘もある。