ミュシャブーム再び

左・《黄道十二宮》 紙、リトグラフ 株式会社インテック(富山県美術館寄託) 右・《黄道十二宮》下絵 紙、墨 堺 アルフォンス・ミュシャ館(大阪府堺市)

 こうして再び訪れたミュシャブーム。日本でもミュシャ人気が再燃し、企業や個人コレクターが作品の収集に力を注いだ。その筆頭が「カメラのドイ(株式会社ドイ)」の創業者・土井君雄氏。収蔵数は版画、油彩、デッサン、彫刻など約500点に及ぶ。土井氏没後、その多くは大阪府堺市に寄贈され、2000年には堺市にコレクションを公開する「堺 アルフォンス・ミュシャ館」が開館している。

 ミュシャの回顧展もひっきりなしだ。2004年に開幕し全国6会場を巡回した「ミュシャ財団秘蔵 ミュシャ展―プラハからパリへ 華麗なるアール・ヌーヴォーの誕生」、2013年から全国5会場を巡った「ミュシャ財団秘蔵 ミュシャ展 パリの夢 モラヴィアの祈り」、そして超大作《スラヴ叙事詩》全20点が公開された2017年の「国立新美術館開館10周年・チェコ文化年事業 ミュシャ展」。スケールの大きな展覧会が定期的に開催されている。

ミュシャが日本で愛される理由

《モンテカルロ》 紙、リトグラフ サントリーポスターコレクション(大阪中之島美術館寄託)

 ではなぜ、ミュシャはこれほど日本人に愛されているのか。3つ、理由を挙げてみたい。

 1つめは「ジャポニスム」。ミュシャは19世紀後半にヨーロッパで巻き起こったジャポニスム(日本趣味)の流行に、大きな影響を受けた。浮世絵、琳派の版本、型染め用の型紙…そうした日本の芸術は、ミュシャの創造の原点になった。日本人がミュシャの作品に親密さを感じるのも当然といえるだろう。

 2つめは「ポスターの地位向上」。一昔前までポスターは、油彩画や彫刻などに比べて軽く見られているところがあった。ポスター画家は、芸術家よりも格下の存在。だが現代はアートとデザインの境界が曖昧になり、ポスターをごく自然にアート作品として捉えられる人が増えている。そうした状況がミュシャの人気拡大につながっているのではないか。

 3つめは「サブカル感」。ミュシャの作品はリアルな描写と、現代のゲームやCGアニメのキャラクターを思わせるファンタジックな世界観が融合している。いい意味で、ハイアートというよりサブカル的。ミュシャの展覧会に足を運ぶと、予想以上に若い世代のファンが多くて驚かされる。