「GUCCI COSMOS」が、京都市京セラ美術館で開催中だ。グッチの歴史と歴代のクリエイティブを、イマーシヴ(没入型)アートとして体感できるエキシビション。アイコニックなデザインのバッグやドレスの展示は、ファッション好きなら見逃せないが、そうでない人にもおすすめしたい。世界的なハイブランドが、いかにして時代の美意識を牽引し、輝きを保ってきたのか、この展示にはその鍵が示されている。

「日本との赤い糸に導かれて」時空を旅するエキシビション

レディ・ガガ主演の映画『ハウス オブ グッチ』(2021)に、60年代NYのグッチ ショップに押し寄せる日本人客が登場する。グッチは日本人がもっとも親しんできたブランドの一つだ。1964年にグッチの製品が日本で初めて正式に紹介されて以来、その60周年を記念に開催される「GUCCI COSMOS」は、グッチのクリエイティブの歴史、伝統とクラフツマンシップを紹介する大規模展だ。

Courtesy of GUCCI

日本との長い相思相愛の関係だけでない。今展会場の京都はグッチの故郷、イタリア・フィレンツェの姉妹都市でもある。その深い縁を「赤い糸」になぞらえ、赤をフィーチャーした映像から、展示はスタートする。 

1964年、銀座にオープンしたグッチ ショップの写真と、日本の顧客のためにデザインされた和装バッグ
60年代に人気を呼んだ「グッチ フローラ」のスカーフ。引き出し状の展示は一部、開けて見ることができる
Courtesy of GUCCI
1920年代に、創設者グッチオ・グッチがザ・サヴォイ ホテルに勤務していた10代の頃、顧客の荷物から着想を得たトランク

巨大なキャピネットが同心円状に並んだ展示「TIME MAZE - 時の迷宮」には、創設から現在のクリエイティブ・ディレクター、サバト・デ・サルノまでの、グッチのアイコニックなアイテムが並ぶ。グリーン&レッド、GGパターン、グッチ フローラ、バッグや靴、スカーフ、ドレス。セレブが身につけたドレスなど、レジェンドに包まれたアイテムたちが、引き出しやボックスにディスプレイされている。まるでクローゼットからタイムマシンに迷い込むような、プレゼンテーションだ。

ブランドの情熱とパワーに没入。イマーシヴな立体展示

「ZOETROPE - 乗馬の世界」は、回転のぞき絵のようなスクリーンに疾駆する馬の映像がプロジェクションされ、スリット状のウインドウにドレスが展示される。

Courtesy of GUCCI
馬の映像が、スリットを開けた円形の壁を、迫力の音響と共に走る
馬具の金具を模した「ホースビット」をアクセントにしたドレス
Courtesy of GUCCI
1953年に発表された「ホースビット」付きのローファーは、グッチを代表するデザインとなった

馬具からインスパイアされた「ホースビット」をあしらったアイテムも展示。点滅する照明と、馬の足音に囲まれる立体的な音響は、観客を没入感に誘い、ブランドが駆け抜けてきた時代と、情熱とを体感させる。 

「ECHOES - クリエイティビティの系譜」では、1970年代から現在までのグッチのコレクションを一堂に展示。グッチの新時代を拓いたトム・フォードの着物風ドレスなど、常に時代の美意識や価値観をリードしてきたグッチの世界が、ランウェイを歩くモデルたちのような躍動感で迫ってくる。

レディー・ガガやテイラー・スウィフトが着用したドレスも展示
シルクの着物風ガウン(手前)はトム・フォード2003年春夏のコレクション

 美術館所蔵の近代絵画コレクションとの対話

「GUCCI COSMOS」展は、2023年に上海、ロンドンに巡回しているが、キュレーションには場所ごとの特色が反映されている。「Leisure Legacy - ライフスタイル讃歌」と題したセクションでは、会場である京都市京セラ美術館の所蔵品とのコラボレーションが実現した。乗馬やテニス、ピクニックなど、グッチのライフスタイルアイテムと、近代京都画壇の画家たちが、洋風の画題に挑んだ作品とが、時空を超えて対話を始める。

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丹羽阿樹子《ゴルフ》(昭和初期:京都市京セラ美術館蔵)と、グッチのゴルフアイテムとが並んで展示された
菊池契月《紫騮しりゅう》(1942 京都市京セラ美術館蔵)と、1988年に製作された馬のサドル

グッチと日本をつなぐ、「バンブー」の世界

グッチのアイコン的バッグといえば「グッチ バンブー 1947」。乗馬のサドルの輪郭を模したシェイプに、竹のハンドル、という東西の文化の融合デザイン。そして日本的な素材、竹を手で曲げるクラフツマンシップに、日本との親近感は強い。竹林の映像が映し出されたメインウォールに60年代から現在までの「グッチ バンブー 1947」バッグが並べられ、日本上陸60周年を記念しヴィンテージバッグと日本の工芸家、アーティストがコラボレーションした作品が展示されている。

Courtesy of GUCCI
竹林をプロジェクションした壁と、井上流光《薮》(1940京都市京セラ美術館蔵)が、バンブーの世界を浮かび上がらせる
京都の西陣織、HOSOOとのコラボレーション作品も
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グッチ2025春夏メンズのランウェイにも登場した「グッチ バンブー 1947」森山大道とのコラボレーション

グッチの歴史とクリエイションをめぐる旅を締めくくる、鮮烈な赤の部屋

Courtesy of GUCCI
本展のデザインはイギリス人アーティストであるエス・デヴリンが手がけた

結びは、「赤い糸」── 情熱をかきたてるレッドに包まれる。

この重厚な赤は、クリエイティブ・ディレクターのサバト・デ・サルノが「グッチ ロッソ アンコーラ」と名付けた、グッチのシグネチャーカラーだ。

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既存の枠にとらわれない大胆さと、タイムレスなエレガンスの共存を体現している「グッチ ロッソ アンコーラ」は、展覧会をエモーショナルに彩っている。「アンコーラ」とは、「もっと、再び」という意味だ。

ブランドの100年以上の創造の秘訣は「アーカイブからの学び」

グッチのように長年、名声を保っている高級ブランドに対して、誰もが不思議に思ったことがあるだろう。「ブランドのパワーと創造性は、いかにして持続してゆくのか?」「GUCCI COSMOS」はそのヒントを示している。アイテムの放つ輝き、ブランドイメージを鮮烈に印象づける視覚的刺激、歴史に引き込むストーリーテリングだ。そして、その原動力は、過去の蓄積への敬意に根ざしている。

キュレーションを担当したファッション研究家で評論家のマリア・ルイーザ・フリーザは、今展の構想を、イタリア・フィレンツェにあるグッチの創設以来のアーカイブとの対話から得たと語る。

「アーカイブは過去ではなく、アイデアが芽吹く場所」

表層的でトレンド志向に見えるファッションの世界だが、グッチの創造の根源には豊かな蓄積を見つめ、そこから「もっと、再び」学ぶという粘り強く愚直なまでの情熱がある。