今や運動靴という枠組みを飛び越え、1つのカルチャーとしても世界中で愛されているスニーカー。その魅力である軽快な履き心地と個性豊かなデザインは、一流の革靴を日々の相棒とする読者諸氏をも魅了してやまない。ここでは“本物”を知る大人の男が選ぶべきスニーカーを提案する。
写真=青木和也 スタイリング=泉敦夫 文=TOMMY 編集=名知正登
「革靴がなければスニーカーを履けばいいじゃない」
先入観というのは実に厄介で、あらゆる事象の本質を捉えにくくしてしまう。例えば「パンがなければブリオッシュを食べればいいじゃない」という有名なフレーズ。18世紀フランスで活躍した哲学者のジャン=ジャック・ルソーが著書において、農民が主食として食べるパンに事欠いていることを知った大変に身分の高い女性の言葉と記し、のちに「Let them eat cake(ケーキを食べればいいじゃない)」という“身分の高い人物は庶民の生活に疎い”と示す際に引用される慣用句ともなった。
この女性をマリー・アントワネットと記憶している人も多いだろうが、それは全くのデマ。あくまで“そういうことを言いそう”という先入観によりもたらされたもの。このように無意識下でかかるフィルターが、今回のテーマ“ラグジュアリーブランドのハイエンドスニーカー”を取り挙げる理由へとつながる。
「世界中のセレブレティたちに愛されるラグジュアリーブランドの作るシューズであれば、間違いなく良いものに決まっている」。客観的に考えてこれは事実であるのかもしれない。だが実際に手に取り、触れてみなければその本質を語る言葉は空虚なものとなる。
ならばと誰もが知るブランドの5つのモデルをここに集めた。先述のルソーは「Living is not breathing but doing(生きるとは呼吸することではない。行動することだ)」という言葉も残している。とにかくまずは先入観なしに足を通してみてはどうだろうか。さすれば“本当に価値あるものとは何か”の答えが得られるはずだ。
1. DIOR「B27」
“ディオール オブリーク”などアイコニックなディテールを随所に
1946年、フランスで創設。第二次世界大戦が終結を迎え、それまで抑圧されてきた人々のファッションへの渇望に、これまでの概念を覆す美しく構造的なシルエットで応え、“ファッションの革命”を起こしたディオール。近年では、ナイキの名作「エア・ジョーダン1」とのコラボレーションを実現させ、新たにスニーカーヘッズらも注目する同メゾンを代表する一足が、1980年代のバッシュを彷彿とさせる「B27」だ。
アッパー素材は、柔らかくなめらかな質感のスムースカーフスキン。先述のジョーダン1でも採用されたグレー&ホワイトの配色に、アイコニックな“ディオール オブリーク”ジャカードのパネルをあしらうことで、スポーティーなシルエットを洗練された印象に。さり気なくも主張するCD アイコンアイレットやシュータン、ヒールカウンターにあしらわれたロゴも見どころ。