油彩画家としてのミュシャ

《クオ・ヴァディス》 キャンバス、油彩 堺 アルフォンス・ミュシャ館(大阪府堺市)

 そんなミュシャ人気のなか、東京・府中市美術館にて「市制施行70周年記念 アルフォンス・ミュシャ ふたつの世界」が開幕した。タイトルにある「ふたつの世界」とは、版画家ミュシャの世界と、油彩画家としてのミュシャの世界。ミュシャといえばパリ時代に制作した華やかな版画のポスターがあまりにも名高いが、神秘的な趣をもつ油彩画にも目を見張るものがある。

《クオ・ヴァディス》はデザイナーから画家への転身を考えたミュシャが初めて本格的に取り組んだ油彩画。ポーランドの作家ヘンリク・シェンキェヴィチによる同名小説を題材にしたもので、古代ローマ時代に貴族に奴隷として雇われた少女が、思いを寄せる主人ペトロニウスをかたどった大理石像にキスをするシーンが描かれている。

《ハーモニー》 キャンバス、油彩 堺 アルフォンス・ミュシャ館(大阪府堺市)

《ハーモニー》は縦1.5メートル、横4.5メートルに及ぶ大作。巨人が発する光に照らされた世界で、子供から老人まで、様々な人々が生きる姿を描いている。ミュシャは本作について、「豊かさと貧しさ、生と死、喜びと悲しみ、全てが調和を成しています。それは、例えば、太陽の光のスペクトルのような色の調和です」との言葉を残している。深い精神世界を表した作品といえるが、同時にミュシャならではの軽やかなデザインセンスも感じられる。

 これまでミュシャの版画と油彩画は“別世界のもの”のように語られてきたが、見比べると色や形、構図の作り方など共通点も多い。どちらも、唯一無二の個性をもつミュシャの世界。見れば見るほど、ミュシャの魅力は底が知れないと感じる。

 

「市制施行70周年記念 アルフォンス・ミュシャ ふたつの世界」
会期:開催中~2024年12月1日(日)
会場:府中市美術館
開館時間:10:00~17:00 ※入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(10月14日、11月4日は開館)、10月1日(火)、10月8日(火)、10月15日(火)、11月5日(火)
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)

https://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/