カシズク派遣おじさん

「マンスプレイニング」という言葉がある。

「男性が女や子どもに知識をひけらかす」というネガティブな言葉だ。特別に知識をひけらかさなくても、世のおじさんたちの多くは女性に対し、「すごいですね、さすがですね」という言葉を無意識に求めているところがある。

 彼らにまったく悪気はないのだろうが、おじさんが多くの女性と同じ「ハケン」という身分に落とし込まれた場合でも、その立ち位置は変わらないようだ。

 振り返ると、女性が担ってきた仕事には「おじさんをかしずく」ことが業務の一環になっているものが多い。男性司会者の隣にいるアシスタントの女性がそうだし、社長秘書や重役秘書、受付嬢もその代表だ。

 そして、こうした「かしずく」仕事の多くが、非正規労働である。

 でもね、時代は変わったのだ。シニアのおじさんも、定年後に働き続けなければならない時代だ。体調を崩して無理ができない、介護離職しているなどで、最低賃金の仕事を選ばざるを得ない中高年男性もいる。家事や子育てや介護を抱えた女性が、こうした仕事しか選べないように。

 だから、おじさんの中にも、女性たちの低賃金と不安定な立ち位置に、驚きと怒りを感じてくれる人がいるかもしれない。一緒に悩み考え、心から共感を覚えてくれる人がいるかもしれない。

 あえて上からご提案させていただくが、これからの時代の「イケおじ(イケてるおやじ)」は『課長、島耕作』ではない。女子に気を遣わせないインクルーシブなおじさんこそ、「すごい、さすが」と言われる存在になれるのだと思うのだが、どうだろうか。

若月澪子(わかつき・れいこ)
NHKでキャスター、ディレクターとして勤務したのち、結婚退職。出産後に小遣い稼ぎでライターを始める。生涯、非正規労働者。ギグワーカーとしていろんなお仕事体験中。著書に『副業おじさん 傷だらけの俺たちに明日はあるか』(朝日新聞出版)がある。