地域とのかかわりを一度きりで終わらせない

 国は、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(第2期版)のなかで、「副業・兼業で週末に地域の企業・NPOで働く~(略)~『関係人口』を地域の力にしていくことを目指す」としている。そのためには、副業・兼業をきっかけにできた地域とのつながりを、絶やさない工夫が求められる。

 愛媛県松山市のだんだん複業団では、オンラインのコミュニティプログラムを運営している。マッチングまで至らなかった人や、副業・兼業が終了した人でも、コミュニティを通じてかかわり続けることができる。

 コミュニティでは、事務局が県内外でのイベントを案内したり、オンラインサロンで勉強会やフィールドワーク後の意見交換会を開いたりして、参加者同士や市と参加者が関係を深める場になっている。マッチングがうまくいかなかった人が、再挑戦するモチベーションにもつながる。サロンの様子をウェブサイトで紹介することで、新たな副業・兼業人材を呼び込む効果もある。

 2023年からは、団員同士のつながりを発展させる取り組みも始めた。3~5人の団員でチームをつくり、市内企業の課題に一緒に取り組む「共創プロジェクトプログラム」である。さまざまな仕掛けを通じて、市の関係人口を徐々に増やしている。

 受け入れ企業も、副業・兼業人材に対して、単なる安価な労働力としてではなく、自社の従業員と同じように接するべきである。

 鳥取県の吉田建設株式会社では、吉田友和社長が東京に勤務していた廣瀬正樹さんを副業・兼業人材として採用し、人事評価制度の刷新や部門長制の導入に二人三脚で取り組んだ。

 取材した吉田社長からは、廣瀬さんを尊敬する気持ちがにじみ出ていた。そうした吉田社長の気持ちが通じてか、廣瀬さんは2023年から同社に社長室長として就職、鳥取県に足しげく通うようになった。今は、廣瀬さんの人脈も生かしながら新事業部門の販路開拓を進めている。

吉田建設の吉田社長は、副業・兼業人材だった男性を社長室長として採用吉田建設の吉田社長は、副業・兼業人材だった男性を社長室長として採用

共感を得て協働を促す

(本文内容よりJBpress編集部作成)(本文内容よりJBpress編集部作成)
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 地方の中小企業にとって副業・兼業人材の増加は、事業を発展させるチャンスといえる。このチャンスを生かすには、単なるタスク型業務を委託したり、一方的にコンサルティングを受けたりするのではなく、副業・兼業人材と受け入れ企業が協働する姿勢が大切になる。

 そして、協働するためには、副業・兼業人材の企業に対する共感が強いほどよい。受け入れ企業の目標を理解し、同じ方向を目指す姿勢をもつことが、企業に対する積極的な提案や自発的な行動に結びつくからである。

 副業・兼業人材の共感を得るためには、受け入れ企業が事業内容や目標と課題を具体的に示す必要があるが、これは受け入れ側である中小企業にとっても、自社を見つめ直す良い機会になるに違いない。自社の目指す姿に向けて前進しようとする企業と、企業や地域に貢献してスキルを磨きたいと考える副業・兼業人材による相乗効果が、各地で増えていくことが望まれる。