現場を見て、理解を深めてもらう

 愛媛県松山市のだんだん複業団では、受け入れ企業のサポートを充実させるために、参加企業を毎年10社程度に抑えている。

 まず、都市部の副業・兼業人材に向けて、参加企業の経営者が企業理念や事業内容、現状の課題を紹介するオンライン講座を開く。続いて、経営者からじかに話を聞き、事業所や店舗を見学したり、商品・サービスに触れたりする1泊2日のフィールドワークを開催する。オンラインでの参加も可能だが、毎年20人ほどが自費で現地を訪れる。

 さらに特徴的なのが、フィールドワークの後、副業・兼業人材から企業に対してどのようなサポートをするか、具体的に提案してもらう点である。副業・兼業人材は、提案の理由や効果、打ち合わせの頻度といった企業とのかかわり方を記入する定型様式1枚と、図解などで詳細を説明する任意様式から成る提案シートを作成する。作成に当たっては、事務局によるレクチャーを受けることもできる。そして、経営者と副業・兼業人材、事務局の3者でオンライン面談を行う。

 ここまでに約半年かけることもあるという。エントリーからマッチングまでじっくりと行うことで、副業・兼業人材と企業のミスマッチをなくすことをねらう。事前の負担は小さくないが、その分、地域に貢献したい、スキルを高めたいという意欲ある人材が集まりやすい。

だんだん複業団のフィールドワークで、事業の様子を見学する副業・兼業人材だんだん複業団のフィールドワークで、事業の様子を見学する副業・兼業人材

良好な関係を築く

 都市部人材による地方での副業・兼業の大半が、リモートで行われている。常に顔を合わせていない分、経営者との意見のすれ違いによるトラブルが生じやすい。副業・兼業人材のモチベーションを維持する必要もある。

 岐阜県では、G-netのスタッフが、副業・兼業人材と企業の定期的なオンラインミーティングに同席するなどして、双方の良好な関係が続くように気を配っている。

 岐阜県の金属プレスメーカー、早川工業株式会社の早川寛明社長は、副業・兼業人材が意見を出しやすい雰囲気をつくることを意識している。オンラインミーティングの冒頭にはアイスブレイクを入れて場を和ませ、出されたアイデアは頭ごなしに否定しない。些細なことのようだが、副業・兼業人材のスキルを十分に引き出すことにつながる。

 こうした姿勢は従業員にも広がり、廃材でインテリアやアクセサリーをつくって販売するなど、新しい活動が生まれている。

早川工業の早川社長は、副業・兼業人材の裁量を大きくしてスキルを引き出す早川工業の早川社長は、副業・兼業人材の裁量を大きくしてスキルを引き出す

 同じく岐阜県にある大東亜窯業株式会社の楓英司社長は、大手メーカーに勤務する副業・兼業人材と、生産工程の見直しに取り組んだ。現場の検証や改善の実行には従業員の協力が欠かせない。楓社長は、副業・兼業人材と従業員の間に入り、意思疎通が滞らないように意識した。結果、一部のラインでは、焼き上がりから納品までの時間を1週間から1.5日まで短縮できた。

大東亜窯業の楓社長は、副業・兼業人材と従業員をつなぐ役割も欠かさない大東亜窯業の楓社長は、副業・兼業人材と従業員をつなぐ役割も欠かさない

 副業・兼業人材と受け入れ企業の間でトラブルが生じることはある。鳥取県のプロ拠点では、業務委託の契約期間は1カ月単位など小刻みにすることを強く勧めている。副業・兼業人材の本業が忙しくなって時間を確保できなくなったり、互いが想定していた業務内容に齟齬が生じたりしたときに、契約を解除しやすいからである。

 また、プロ拠点では、受け入れ企業に対する年1回の満足度調査を通して、副業・兼業プロジェクトの問題を洗い出す。得られた気づきは、副業・兼業人材を受け入れる際のポイントとともに「副業人材活用ハンドブック」にまとめて地元企業に還元している。