写真:ロイター/アフロ写真:ロイター/アフロ

(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)

 2001年、スピルバーグとトム・ハンクス制作総指揮の、「Band of Brothers」というテレビドラマをDVDで見た。

 第二次大戦で実在した米陸軍のある中隊(米陸軍506歩兵連隊、第2大隊E中隊)の、結成から訓練、戦闘、終戦までを描いた戦争ドラマである。

 巨額の資金がつぎこまれ、迫真の戦闘シーンと普遍的な人間ドラマが描かれていて、これがテレビドラマかと驚き、感激のあまりブルーレイセットも買ってしまったことがあった。ウインターズ中隊長役の主役のダミアン・ルイスもよかった(二匹目のどじょうを狙った続編「The Pacific」はそうでもなかった)。

 あれから23年経った今年、江戸時代の日本を題材にとった米テレビドラマ「SHOGUN 将軍」(アメリカ人が「ショーガン」というのは許してやろう)が、エミー賞の作品賞、主演男優賞(真田広之)、主演女優賞(アンナ・サワイ)など史上最多の18冠を獲得したのである。真田広之はこれを「奇跡的」だといった。

 真田広之は主役だけではなく、プロデューサーとしてこの作品制作に参加した。かれが制作にあたってもっとも腐心したことは、一にも二にも日本および日本人の「オーセンティシティ authenticity」(真正性、信憑性、本物性)を守ることだった。

これがテレビドラマなのか!?

 真田は、1999年から2000年にかけて、イギリスのロイヤル・シェイクスピア・カンパニー公演『リア王』に史上初の日本人俳優として出演した経験があったとはいえ、2003年43歳のときに『ラストサムライ』に出演した経験が大きかった。それ以来、ロサンゼルスに拠点を移して米国映画に出演してきた。

「ラストサムライ」に出演したときの真田広之(写真:Album/アフロ)「ラストサムライ」に出演したときの真田広之(写真:Album/アフロ)

 しかしハリウッドで描かれる日本や日本人に関して、そのつど、そんなことは日本ではやらない、と遠慮がちに改善点を伝えてきたが、俳優としての発言では限界があった。

 それでこの作品で真田はプロデューサーとして、武士の殺陣や所作だけではなく、当時の日本人の立ち居振る舞いや、武器の扱い方、話し方、坐り方、着物の着方など、庶民から武士まで、また男女のちがいまで、「本物らしさ」にこだわったのである。

 制作をしたディズニーは、総製作費約350憶円(2億5000万ドル)、1話35億円をかけて、十二分にその期待に応えた。村をつくり城をつくり船をつくり、衣装や小道具に至るまで、湯水のごとく資金をつぎこみ、日本の俳優陣の度肝を抜いた。なんと1話の製作費は、NHKの大河ドラマ1年分に相当するといわれる。