(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)
あれほど頑なに拒んでいた動画配信サービスに、ついに加入してしまった。といってもアマゾンプライム会員(Amazon prime video)だけだが。
あれはもう10年ほど前になるのか、Huluというものに加入すれば映画が見放題らしい、と聞いた。それが動画配信サービスというものがあると知った一番はじめである。アメリカではいまやDVDなどより、こっちのほうが主流なのだと。
とはいえ実態も知らないまま、オレにそんなものは不要だなと、聞き流した。なにしろこっちには、心強いツタヤのレンタルDVDがあるのだから。
ところがその後、Netflixという言葉を頻繁に聞くようになった。そしてマーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノ主演の大作『アイリッシュマン』がNetflixの資金で作られ、それを見るためにはNetflixに加入しなければ見られない、という事態に直面することになったのだった。
そうはいってもいずれはDVDになるんだろ、とわたしは高をくくっていたが、世の中そうは甘くなかった。かれらは本気だったのだ。Netflixの資金力の強大さをまざまざと見せつけられてしまったのである。
そうこうするうち、テレビでサッカーの国際試合が放映されなくなった。それよりも驚いたことは井上尚弥の試合がテレビ中継されなくなったことである。全部動画配信サービス会社に放映権を取られてしまったのである。
そうこうしているうちにレンタルDVDも
無邪気にもテレビは万能だと思っていたので、そんな日が来ようとは夢にも思わなかった。しかしそのことであきらかになったのは、日本のテレビ局の貧弱さである。
ざっといってNHKでこそ売上高は7500億円だが、他の民放各局は軒並み2000億円台である(日本テレビ:2900億円、TBS:2200億円、フジテレビ:2300億円、テレビ朝日:2200億円、テレビ東京だけ1100億円)。
それに比べ、たとえばNetflixの売上高はなんと5兆円である。日本のテレビ局は日本国内で日本人庶民相手に威張っていただけなのだ。
まあそんなことはどうでもいいのだが、わたしにとって直接的に影響があったのは、頼みの綱であったツタヤの店舗が激減していることである。2013年度は全国に1440店あったのが、2022年には1034店まで減り、現在は当然1000店を割り込んでいるはずである。わたしの行きつけの店舗もあえなく閉店してしまったのである。