大谷フィーバーのなかでのイチローの立ち位置

「男子の場合は、高校野球の先に、大学や社会人、プロ野球と(活躍するための)ハコがある。その先にメジャーリーグもある。僕が関わらなくても、勝手に盛り上げてくれる人はいっぱいいるわけです。僕なんか必要ない」

 これに対し、女子野球の普及や定着については「まだまだ、成立しないですから、この1試合だけでは。でも、これが注目してもらえる一つのきっかけになるというか、松井秀喜が来てくれたり、大輔(松坂氏)もそうですけど。大きく変えることはなかなか難しいけど、小さなきっかけをこういうことで作っていきたい」と力を込めた。

エキシビションマッチを大きく報じたスポーツ紙(写真:筆者撮影)
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 大谷選手の活躍は純粋に本人のプレー、そして本人のコメントだけでも充分すぎるほどの注目が集まる。そこに“先輩”が余計なコメントを挟む必要はなく、むしろ女子野球に関心を引くことに注力する。それは、野球界全体の盛り上がりというバランスも考えた上でのことかもしれない。

 エキシビションマッチは、松井氏の一発もあり、インターネット上には関連記事が次々にアップされ、翌日のスポーツ紙も、大谷選手が活躍し、ソフトバンクが4年ぶり22度目となるパ・リーグ制覇を果たしたにもかかわらず、筆者が確認した日刊スポーツ、スポーツニッポン、サンケイスポーツの3紙はいずれも、エキシビションマッチを扱った記事に紙面を大きく割いていた。

 ゼロから立ち上げて、4回目を数え、読者ニーズも掘り起こしている。

田中 充(たなか・みつる) 尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授
1978年京都府生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程を修了。産経新聞社を経て現職。専門はスポーツメディア論。プロ野球や米大リーグ、フィギュアスケートなどを取材し、子どもたちのスポーツ環境に関する報道もライフワーク。著書に「羽生結弦の肖像」(山と渓谷社)、共著に「スポーツをしない子どもたち」(扶桑社新書)など。