政府備蓄「100万トン」維持に年間約500億円

 政府備蓄米の「100万トン備蓄」という指針は、10年に1度という極度の不作、または2年連続で通常レベルの不作が続いた場合に乗り切ることができる量とされています。「コメは民間流通が基本。かなりのことがない限り、政府備蓄米は供出しない」(農林水産省)とされていますが、過去に供出例がなかったわけではありません。

 1つは2011年3月の東日本大震災。コメどころの東北が甚大な被害を受けたことなどからコメ不足が顕著になり、4万トン余りが供出されました。また、2016年の熊本地震の際にも政府備蓄米は取り崩されています。

 政府は毎年、20万トンを買い入れ、保管期限の5年が経過したコメは主に飼料用として売却。毎年、少しずつ入れ替える「棚上げ備蓄方式」を採用しています。そのコストはどうなっているのでしょうか。

 農林水産省の資料によると、2021年度には備蓄米の保管などにかかった費用は約113億円。さらに、当年分の買い入れ価格と保管期限の到来したコメの売却価格との損益がマイナス337億円。合わせて490億円の経費を使った計算でした。

「平成のコメ騒動」ではコメを求めるためにスーパーに長蛇の列も(写真:Haruyoshi Yamaguchi/アフロ)

 現行の「100万トン」という備蓄量が決まったのは2001年です。当時のコメ消費量は日本全体で約900万トンでしたが、現在は700万トン程度に減少しています。このため、過去に何度も「年間500億円前後の国費を投入して100万トンも備蓄する必要があるのか」という議論が沸き起こりました。

 ただ、海外では安全保障戦略の重要項目として食料備蓄を重視する傾向が強まっています。日本では依然として減反政策(政府の補助金などによりコメ作りを意図的に減少させる政策)を継続していますが、中国では2024年6月、食料安全保障法が成立。基本的には自国の農産物で14億人の人口を賄う方針を打ち出しました。またこれと並行し、国際市場でも積極的に食料を買い付けており、潤沢な食糧備蓄を進めているとされています。

 スイスでは2017年に「食料安保」を盛り込んだ憲法改正が実現し、政府と契約した民間企業が小麦やコメ、砂糖、油などの備蓄を進めています。北欧のフィンランドやデンマークも輸入経路が途絶えることなどを念頭に備蓄を強化。国土の6割が砂漠であるにもかかわらず、食料自給率が90%以上というイスラエルのように、各国は「食料確保は重要な安全保障」とみなし、長期的視野で食料確保に注力しているのです。