「持たざる国」、石油やレアメタルも備蓄

 日本が進める国家備蓄は食糧だけではありません。石油や液化石油ガス(LPガス)、レアメタルなどの戦略物資もその対象です。

 石油備蓄は1970年代に2度にわたって起きたオイルショック(石油危機)を教訓として、輸入不足に陥った際の非常用としてスタートしました。

 現在の制度では、日本政府が保有する「国家備蓄」、石油備蓄法で民間の石油精製企業に保有を義務付けた「民間備蓄」、サウジアラビアとクウェートとの間で実施される「産油国共同備蓄」の3種類で構成されています。

 経済産業省・資源エネルギー庁の資料によると、それらの備蓄の総量は2023年8月末現在、合計で236日分、5714万キロリットルに達します。国家備蓄用の基地は「苫小牧東部」(北海道)や志布志(鹿児島県)など全国に10カ所あり、民間備蓄基地は北海道や茨城県、沖縄県などの10カ所です。

 LPガスも石油備蓄法によって保管方法などが定められています。2023年8月末現在、国家備蓄は53日分、民間備蓄は73日分。備蓄総量は344万トンです。これら石油とLPガスの備蓄関連予算は、2023年度で1280億円に達しました。

 一方、蓄電池などの材料となるレアメタルについても、日本政府は備蓄を進めています。レアメタルはレアアースやコバルト、バナジウム、クロムなど希少金属34種の総称で、電気自動車(EV)や通信機器の製造に欠かせません。とくにEVの普及が急速に進んでいることから、国際市場でのレアメタル不足は確実視されています。

 このため、日本政府は国内の基本消費量の60日分(国家備蓄42日分、民間備蓄18日分)を目標として、各レアメタルの備蓄を進めていました。しかし、レアメタルはもともと産出量が少ないため、産出国は特定の国に偏在しています。例えば、リチウムイオン電池に使用されるコバルト鉱石の63%はコンゴ民主共和国で産出。また、中国はタングステンの95%、蛍石の63%を占有するなどしています。

 こうしたことから、日本政府は2020年3月末に策定した新国際資源戦略で備蓄内容の見直しを進め、種類によっては備蓄量を180日分程度に増やすなどの目標を打ち立てたのです。

 食料にしてもエネルギーやレアメタルにしても、日本は「持たざる国」です。例えば、コメについては、このまま減反政策を継続して果たして安定的に確保できるのかどうか。農政や資源エネルギー政策も外交・安保戦略の一環として確立させないと、中国の台頭といった国際環境の変化のなかで大きな痛手を受けることになるかもしれません。

フロントラインプレス
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