〈大卒でも「特定技能」を選ぶしかない〉女性・20代後半
 介護奨学金で渡日することができない例も存在する。Bさんは日本語能力N2(上から2番目のレベル)の大卒。面倒見のいい女性であり、介護分野は自分に向いていると思っていたと話す。しかし、介護奨学金ではなく特定技能の在留資格で渡日を目指すこととした。

「私のパスポートはPJなんです」

 ミャンマーのパスポートには種類がある。PJとは「パスポート・ジョブ」のことで、就労用パスポートを意味する。コロナ禍前、特に渡航目的を定めずにパスポート申請をしたBさんは、PV(パスポート・ビジット=観光用パスポート。留学も可)より使い勝手が良いかもしれないとPJを選択していた。

 ところが人によっては、パスポートがPJであるかPVであるかが、ミャンマー出国の成否を分けることになる。就労目的で出国しようとして、パスポートがPVであったため出国できなかったという事例があった。飛行機にチェックインし、いざ出国というときにはじかれたのである。

 ちなみに前述のA君はPVを取得していたため、介護奨学金での出国が(おそらく)可能だ。大前提としてA君とBさんは、そもそも日本への「渡航」を目的に日本語を学んでいたわけではない。民主化と国際化が進むNLD政権下で、ヤンゴンに進出する日本企業の現地法人への就職を目的に日本語学校に通い始めた。クーデター前にパスポートを取得した時も、日本での就労は視野に入れていなかった。たまたま選んだパスポートの種類によって、人生の選択肢が絞られてしまったのである。

 パスポートの新規取得さえ難しくなっている今、PJをPVに変更するのにどれほど時間とお金がかかるかわからない。手持ちの条件の中で少しでもマシな人生を選択することが賢明だ。BさんはPJの有効な使い道は特定技能での渡日と判断。14種ある特定技能のうち、介護ではなく宿泊業を選ぶそうだ。

〈大学を卒業して「高度人材」として就職を目指す〉男性・20代前半
 現在のミャンマーの大学はどうなっているのか? 国軍メディアは平常通り再開したと報道しているが実際のところは難しい。クーデター後、学生たちは政権が代わった(大学運営が軍政権下になった)ことに反発し、授業をボイコットしていた。大学に行くということは軍政権を認めたことになるという考えに縛られ、卒業をあきらめる学生も多い。

 それでも、ヤンゴンの理系大学に籍を置くC君は、卒業証書をもらうまでは大学に行くという。軍政権を認めないという理由で大学卒業をあきらめるのは、逆に軍政権に人生を振り回されたことになるのではないかと話す。

 C君の日本語能力は最高レベルのN1である。理系大学の卒業証書を手に入れれば、「高度人材」枠での渡日が可能になると目標を定めた。エンジニア、プログラマーなどの専門能力を持つ4年制大学卒業者の場合、直接日本企業に就職ができる。軍政権は就労目的の渡航を禁止したが、その対象は特定技能と育成就労だけで、高度人材であればワーキングビザで日本へ行くことができるのだ。

 今すぐにでも脱出したいと国境を渡ろうとする者もいる。けれど、C君は2025年にきちんと大学を卒業することを目指している。どの道が安全なのかは誰にもわからない。

菱木ヒスイ
(ひしきひすい) 日系企業の駐在員として2023年末までミャンマー在住。

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