徴兵の対象は男性18歳~35歳、女性18歳~27歳。学生、公務員は猶予するという発表だった。ミャンマー報道の難しさに定義の曖昧さがある。年齢を出生時で1歳とする場合(数え年)と出生後1年目に1歳とする場合(満年齢)があり、場合によってどちらを使用するかもまちまちであるため、発表された年齢を正確に把握することができない。

 ミャンマーの徴兵制は2010年に導入されていたが未実施のままであった。民主派や少数民族武装勢力と軍の攻防が激化し、軍が劣勢になり始めたという情報が飛びかう中での実施発表だった。しかし、発表と同時に疑問の声があがった。

 投降・脱走などによる兵士不足を補うための徴兵制ということだが、「軍事政権」と「民主派」がもめている状況下、後者の側に立って軍に抵抗する傾向が強い一般の若者たちを徴兵して、軍人にできると考えているのか?

「もう日本には行けない」授業も希望も捨てた生徒

「だから、軍はバカなんですよ」と嬉しそうに耳打ちする人もいる。大声では言えないが言わずにはいられないのだろう。しかし、軍を批判したところで若者が徴兵制に震えていることは事実なのだ。当時の若者たちの声を拾い上げる。

本コラムは新潮社の会員制国際情報サイト「新潮社フォーサイト」の提供記事です。フォーサイトの会員登録はこちら

「軍は“人間の盾”として若者を徴兵しているんです。民主派側の学生などを盾にすれば抵抗勢力も攻撃の手が緩みますから」

「結束し始めた少数民族も、この徴兵制度で結束が乱れる可能性がありますよ。民族によって徴兵の順番を変えることもできるのですから。仲たがいの道具にできる」

「結局、嫌がらせでしかないんです。だって、召集令状が来たところで出頭する者などいない。出頭しなかった者を無理やり連れ去る理由を作ったに過ぎない」

 それぞれの意見・分析がどうであろうと、現政権(軍)の決めたことに抗うことはできない。国民がいうところの「めちゃくちゃ」な内容変更も続く。

 ミャンマーの海外人材派遣協会(MOEAF)は2月13日、海外就労に対する求人の情報更新を停止すると発表。在ミャンマーの日本の送り出し機関には労働局から、徴兵条件に当てはまる若者に対しての送り出し中止の通達が届いた。関係者の話によるとこの通達は電子メールなどで各送り出し機関に伝えられ、軍評議会労働省からの公的な正式発表はなかったという。

※送り出し機関とは、海外就労を目指すミャンマー人の若者を、日本の労働力不足を補う特定技能実習生・育成就労生として日本へ送り出す団体

◎新潮社フォーサイトの関連記事
ボランティア不足の能登被災地、ミャンマー人が「日本に恩返し」
地球温暖化で危険になる地中海 「カリブ海に似てきた」という船長も
逆視点シミュレーション「台湾有事」――中国軍から見た着上陸作戦の困難さについて