江戸時代のデータもある南海トラフ地震の確率根拠
南海トラフ地震の発生確率は、「この地域で大地震が起きると地盤が規則的に上下するという現象」が算定根拠になっています。
南海地震の前後で土地の上下変動の大きさを調べてみると、「一回の地震で大きく隆起するほど次の地震までの時間は長くなる」という法則性があるというのです。
その算定根拠の1つが高知県室戸岬の北西にある室津港のデータです。と言っても中には江戸時代のデータがあります。江戸時代の中頃から室津港で暮らす漁師たちには港の水深を測る習慣があったのです。
具体的に地震前後の地盤の上下変位量を見ると、1707年の地震では1.8m、1854年の地震では1.2m、1946年の地震では1.15m隆起しました。
1.8mの地盤が隆起した1707年の地震から次の地震までの間隔が147年、1.2mの地盤が隆起した1854年の地震から次の地震までの間隔が92年だったことから、1.15m地盤が隆起した1946年の地震から次の地震までの間隔は90年前後と予測できるというわけです。
マグニチュード9シンドローム
公的機関が公表している情報でも、「東海、東南海、南海地震が連動して発生すれば、当然マグニチュード9クラスの超巨大地震が発生する」とされているので、今や「南海トラフ地震=マグニチュード9.0」というのが常識のようになっています。
第二次世界大戦後の七十数年間、地震学者が予測した大地震は一度も起きていないのにもかかわらず、「南海トラフ巨大地震は2040年までに必ず来る。巨大地震は約300年に一度の「三連動地震」となる。3つの地震が一気に、数十秒のうちに連続して起こるかもしれない。最初に東南海地震(名古屋沖)から始まるはずで、次に東海地震(静岡沖)、そして最後に南海地震(紀伊半島沖)と続く」と断言する研究者もいるほどです。
しかし、内情に詳しい地震学者によれば、2011年12月に公表された「南海トラフで発生する巨大地震の想定震源域・津波波源域」の原案を作成した担当者は、とにかくマグニチュード9を実現させるため、かなり無理をして断層をつないでいったようです。発生時期についてもまったく予測できないとしています。
このことからわかるのは、南海トラフ地震のような超巨大地震はそう簡単には起きないだろうということです。まったくの偶然が重なって発生する、最悪の場合の見積もりと考えたほうがよいと思います。
南海トラフ巨大地震の震源域は、駿河湾の駿河トラフから南海トラフに続き、琉球海溝北端沿いの日向灘沖に達するとされていますが、「地球物理学の見地から、地下の岩盤が推定通り都合よく割れていくのかどうか疑問だ」との声が出ています。「超巨大地震の発生時期は22世紀どころか23世紀だ」との見解もあります。
にもかかわらず、多くの地震学者たちは、何が何でも超巨大地震の発生を警告したくてたまらないのではないかと思えてなりません。
地震学者はなぜこのような愚行を犯してしまったのでしょうか。
前述の地震学者は「想定外の超巨大地震(東日本大震災)が発生したことで、地震学者の多くは『マグニチュード9シンドローム』にかかってしまった」と説明しています。つまり、今後「想定外」と言わなくていいように、根拠が乏しい超巨大地震の発生を想定し、とにかく「危ない」を連発しておけば、太平洋側のどこかで地震が発生したとき「想定していました」と弁解ができ、「責任逃れができる」と考えるようになったというのです。そのターゲットになったのが南海トラフ地震だったというわけです。
しかし、この弊害は極めて大きいと言わざるを得ません。
千年に一回の極めて珍しい超巨大地震が、マグニチュード6クラスの中規模地震と同じように発生するという感覚で警告が出されるようになってしまったからです。
「最も危険なのは南海トラフ地震だ」という誤った考え方を国民に植え付けた弊害は計り知れないものがあると思います。
マグニチュード9シンドロームが最も危険なのは、人々が「危機慣れ」してしまい、本当の危険が迫ったときに何も行動しなくなるのではないかという点です。