したたかなティールとトランプ
橘:テクノ・リバタリアンとトランプ陣営の接近──。一見すると、両者は相容れないように思えますが、民主党より共和党を支持したほうが自分たちのビジネスにとって有利だというテクノ・リバタリアンの選択は極めて合理的です。とはいえ、彼らはグローバリストなので、トランプ陣営が掲げる「Make America Great Again」のようなアメリカ第一主義に共感しているわけではありません。
トランプ陣営の方もしたたかで、第1次政権時にホワイトハウスの主席戦略官を務めたスティーブ・バノンのような反動主義者は影響力を失い、代わりにイーロン・マスクや著名投資家のマーク・アンドリーセンなどテクノ・リバタリアンを選挙戦に利用しています。彼らが持つとてつもない富や、インフルエンサーとしての影響力を考えれば、トランプが近づきたがるのも当然でしょう。
最後に、テクノ・リバタリアンを代表する人物である、ピーター・ティールの政治思想を少し紹介したいと思います。
ティールは「自由」を至上の価値とするものの、自由を支えるためには「安全」も不可欠だと考えています。9・11同時多発テロが起きた後、ティールは2003年に情報分析企業のパランティアを立ち上げ、国防省やNSAといった諜報機関に対して「テロの兆候を捉える監視システム」を提供しています。
監視社会のための基盤を構築することは、あらゆる中央集権的な組織を拒絶する原理主義的なリバタリアン(アナキスト)から批判されますが、リアリストのティールは「自由とは、それを支える安全があってこそ存在できる」と考えています。
さらには、富が大きくなればなるほど、それを奪うことの価値も高まります。
どれほどの富を持っていても、「暴力」を独占する国家には対抗できません。国家から身を守るもっとも効果的な方法は、国家(政治)に対して影響力を持つようになることでしょう。
大きな富を持つ者は、自分が「持たざる者」の標的になることを恐れるようになります。ティールをはじめとして、大富豪の多くが、世界の終末を恐れる「プレッパー(準備する者)」となって、ニュージーランドに土地を購入したり、シェルターをつくったりしているのは、そうした不安の表われだと思います。