このように、「中国人が中国の古典をもとに創った中国式ゲーム」という点が強調されているのである。

『黒神話:悟空』を開発した杭州遊科互動科技(Game Science)の公式サイトより
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つい3年前は「スマホゲーム=精神的アヘン論」が席巻

 私が思い出すのは、いまから3年前の出来事だ。習近平主席は2021年7月1日、中国共産党創建100周年で、まるで皇帝様のように振る舞った。そしてその翌8月17日、中央財経委員会第10回会議を招集し、「共同富裕」という概念を改めて提起。IT企業の経営者を中心とした富裕層に衝撃を与えたのだった。

 そうした流れで、同年8月3日、官製メディアの『経済参考報』が、「『精神的アヘン』が数千億元産業に成長してしまった」と題する記事を掲載した。スマホゲームは「精神的アヘン」であり、「早急に規制しないと健全な青少年が育たなくなる」と警鐘を鳴らしたのだ。そこから、「スマホゲーム=精神的アヘン論」が喧伝されていった。

 同月30日には国家新聞出版署が、「未成年のネットゲーム狂いを厳格に管理し、未然に確実に防止することに関する通知」を発表。その要諦は、「あらゆるネットゲームの企業は、金曜日、土曜日、日曜日、祭日の20時から21時の1時間のみ、未成年に提供してよい。その他の時間は、一律に未成年にネットゲームのサービスを提供してはならない」というものだった。

 この突然の通知で、全国2.5億人の青少年は、目が点になった。同時に、当時の中国メディアの報道によれば、8月3日から1カ月で、3000億元(約6.1兆円)近いゲーム関連企業の株式時価総額が吹っ飛んだ。

2021年、オンラインゲーム中毒を防止するため、未成年者へのオンラインゲームサービスの提供時間を厳格に制限するよう中国当局は通知を発した(新華社/共同通信イメージズ)
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 当時は悪名高い「ゼロコロナ政策」の真っ最中で、数少ない成長産業だったゲーム産業は、完全に腰砕けとなった。それから3年が経ち、いまや経済不況が待ったなしの状況に追い込まれるに至って、背に腹は代えられなくなったのである。

 孫悟空を弟子にした三蔵法師のモデルとなった玄奘は、「一切の有情はみな食によりて住す」と説いた。そう、経済発展がなければ、国民は食いっぱぐれてソッポを向いてしまう。