「心配するな、俺もお前と同じだから」

■落語『動物園』のあらすじ

 主人公は、力仕事が苦手で、コミュ力もなく、仕事が長続きしないだらしない男。ある日、男のもとに割のいい仕事の依頼が舞い込んできた。

 力仕事も周囲とのコミュニケーションも必要なく、昼食・昼寝付きで1日1万円。喜んで仕事場に出向くと、そこは移動動物園だった。

 園長曰く『目玉だった白いライオンが死んでしまった。観客は楽しみにしているので、残った毛皮をぬいぐるみとしてかぶって、白いライオンとして檻の中でうろうろしていてほしい。基本ゴロゴロしていて構わない』とのこと。ライオンらしい歩き方を教わり、「これは楽でいいや」と仕事を受けることにした。

 開園時間になると、多くの観客がやってくるのだが、男は退屈しのぎに子供をからかったり、子供の持っていたアンパンをせびったりなどと呑気なことをして過ごしていた。こりゃ楽でいいやと、隠れて煙草を吸うなどしていたのだが、突然、けたたましい音楽とともに司会者が現れた。

「これから白いライオンと黒い虎との対決ショーをご覧にいれます」

「聞いてないよ、そんな話」

 慌てふためく男だったが「やはりおいしい仕事にはオチがあったんだ」と涙ぐんだ。やがて黒い虎が唸り声をあげて近づいてきた。もはやこれまでと観念する男に、黒い虎が近づいてきて耳元でささやいた。

「心配するな。俺も1万円で頼まれた」

 上方由来の2代目桂文之助作の新作落語です。「ライオンの歩き方」だけでもばかばかしくて面白いので、ぜひYouTubeなどでご視聴してみてください。

 この落語がなぜ、今の日本に必要なのか。その理由はズバリ、オチの「心配するな、俺も1万円で頼まれた」というひと言にあります。