落語は「苦労の割り勘装置」
人生において、「もはやこれまで」と思うような場面に、多くの人が直面するとはずでしょう。そして人間は誰もが「自分が一番つらい目に遭っている」と思いたがる生き物です。
だからこそ、そんな時は「きっと俺だけじゃないんだろうな」と思ってみましょう。
そして、つらそうな立場にいるような人を見つけたら、「心配ないよ、俺も同じ境遇だよ」と、動物園の黒い虎のようにそっとつぶやいてみたらいかがでしょうか。きっと、相手のみならず、あなた自身も気持ちが少しだけ、楽になると思います。
私は、まさにこうした「苦労の割り勘装置」こそ、落語の持つ本質的な役割ではないかと思っています。江戸時代、「飢えと寒さ」というなかなか克服できない庶民のストレスを緩和させる機能が、長屋という空間にありました。「困ったときはお互い様」という人間関係です。
そして、それらをベースに描かれた「落語」にはまさに、「笑い合うこと」で相互の負担を軽減しあえる効能があります。
自然災害や市場の動揺など、予期せぬ出来事が襲ってきて、「もはやこれまで」と落ち込むこともあるでしょう。でも、そのつらさや不安は、一人で背負い込まなくてもいいんです。あなたの目の前にいる人も、動物の毛皮よろしくスーツという戦闘服を脱ぎ棄てればきっと、あなたと同じ一人の弱い人間なのですから。