カギを握るタマネギ男

 だが、韓国大統領の任期は5年で再任はない。反日政策を韓国で繰り広げて安定した政権運営を担うには、強力な相棒が必要だ。それがやはりこれまでも日本を厳しく批判してきたタマネギ男こと、野党・祖国革新党の曺国(チョ・グク)党首である。

 曺氏はもともと李氏とともに日本に対して強硬な発言を繰り返してきた。最近では李氏の唱える「親日追放」に賛同する声を挙げている。

 これをめぐって保守系メディアである東亜日報系列のチャンネルAによれば、李氏の側近が「反日追放でタッグを組めば、李代表に次ぐ人物と目されるだろう。政権交代をにらんで結集すべきときは結集しますよ」と発言している。

 ただ、2人とも司法リスクを抱えている。李氏は城南市長時代に土地開発をめぐって民間業者に多額の利益を得させた背任疑惑、曺氏は家族の大学不正入学疑惑を持たれている。

 とはいえ、韓国の司法判断は時の政権の力にも左右されてきた。政権交代が現実味を帯びてくれば、次期政権に寄り添うような判決が下る傾向がある。現時点で次期大統領候補として大きな支持を集めている李氏が有罪判決を受けるかどうかは不透明だ。そして、無罪を獲得するためにも、李氏は政権奪取へと突き進まねばならない。

 9月2日、文在寅前大統領と娘のダヘ氏への疑惑が一斉に報じられた。在任中の2018年に娘の元夫を航空会社に就職させ、その見返りとして元議員に公団理事長のポストを与えた収賄容疑である。

 共に民主党が与党の時代の出来事だったため、李氏にしてみれば自分の信頼喪失につながりかねない。タマネギ男は文大統領の側近だった。それでも李氏は、支持拡大のため人気のあるタマネギ男と反日のボルテージを上げていく意志は変わらないだろうと、チャンネルAは報じている。

 近々岸田首相の訪韓が予定されているそうだが、気軽に約束を取り付けると次の政権で手のひら返しされるだろう。そうなれば、日韓関係は大暗転である。

平井 敏晴(ひらい・としはる)
1969年、栃木県足利市生まれ。金沢大学理学部卒業後、東京都立大学大学院でドイツ文学を研究し、韓国に渡る。専門は、日韓を中心とする東アジアの文化精神史。漢陽女子大学助教授。