韓国「光復節」での反日・反尹錫悦政権デモ(写真:Lee Jae Won/アフロ)

韓国でまたもや反日が勢いづいてきた。尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権発足以来、一気に雪解けが進んだように思われてきた日韓関係だが、それは見掛けに過ぎなかったらしい。

(平井 敏晴:韓国・漢陽女子大学助教授)

 ここにきて反日が勢いづいている背景には、尹大統領の不人気がある。今年4月に行われた国会議員選挙で与党・国民の党が大敗して以降、大統領支持率は30%前後と低迷を続けている。韓国調査会社リアルメーターが発表した直近のデータでは29.6%で、政権発足以来ワースト2の状況だ。

 そうしたなか、野党は尹政権に対する批判のボルテージを上げ続けている。特に最近、尹政権や与党の政策を「親日」だと糾弾する声が最大野党・共に民主党から続々とあがっている。

 韓国での「親日批判」はこれまでも繰り返されており、決して珍しいものではない。一般的に韓国社会における「親日」とは、戦前に日本が統治していた時代に日本に協力する言動をした人たちを指す言葉だ。特に、政治家の間ではそれ以外の文脈で使われることはなかった。

 日本に強硬的な態度をとり続けた文在寅(ムン・ジェイン)前大統領が在任中に掲げた「親日清算」もそうだった。そして、韓国で偉人として名を残している人物について、併合時代に日本に協力した記録を探し出す運動が韓国全土で展開された。

 たとえば、2018年には東亜日報や高麗大学を創設した金性洙(キム・ソンジュ)を親日派として批判する運動がおこった。もちろん本人は他界しているのだが、銅像撤去を学生が要求する事態になり社会を賑わせた。つまり「親日」とレッテルが貼られると、半ば“罪人扱い”されてしまうのだ。

 ところが最近は、現在の日本政府に歩み寄るような歴史観をにじませる言動をしただけでも「親日」と指摘されるほど、反日が勢いづいている。

 その一例を紹介しよう。尹政権では近々、雇用労働部の長官が交代することになっている。それに先立ち、新長官候補の金文洙(キム・ムンス)氏が適任かどうかを判断する人事聴聞会が8月26日に開かれた。ところが、その席での金氏の発言が親日だと指摘され、聴聞会が13時間にわたり空転した。

 その発言とは、日本が統治していた当時の朝鮮人の国籍は「日本」だとするものだ。これに対し、質問した共に民主党の議員は「我々の祖先の国籍が日本なんですか?」と問い直すと、金氏は「国籍は日本でしょう。知らないんですか?」と突っぱねた。

 すると今度は野党議員らから、大韓民国や憲法を「否定している」との批判が金氏に浴びせられた。

 こうした議論の背景には、大韓民国の建国時期に対する認識の違いがある。