欧州で規制を受ける自動車メーカーの本音

 実際に2024年4月25日から5月4日の日程で開催された第18回北京モーターショーでは、ドイツの主要完成車メーカー3社(BMW、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン)が対中戦略を発表。今後も中国との関係を重視する姿勢を鮮明にしたばかりだ。

 ではなぜ、ドイツの自動車メーカーはデリスキングを進めようとしないのか。最大の理由は、ドイツの自動車メーカーにとって、中国の市場が引き続き最大の収益源だというところにある。また両国の自動車メーカーの間には、密接な供給網(サプライチェーン)が構築されている。それをすぐに見直すことなど、双方にとって不可能な話だ。

 つまりドイツの自動車メーカーは、デリスキングを進めようとしていないのではなく、進めることができないのである。欧州委員会によるデリスキングの要請自体が、ドイツの自動車メーカーにとって不合理ということだ。

 それにドイツの自動車メーカーが、欧州委員会に対して強い不信感を抱いていることも、デリスキングを阻んでいるようだ。

 そもそもドイツの自動車メーカーは、欧州委員会が進めてきたEVシフトの動きに対して慎重な態度を堅持してきた。走行時に温室効果ガスを排出しないゼロエミッション車(ZEV)のカテゴリに合成燃料(e-fuel)を用いた内燃機関(ICE)車が含まれるようになったことにも、ドイツの自動車メーカーの意向が強く反映されている。

 EVシフトの旗振り役だったウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長が再任されたことで、11月に発足する欧州委員会の次期執行部も、引き続きEVの普及を目指していくことになるだろう。一方で、中国も新エネルギー車(NEV)という概念の下で自動車の電動化を推進しているが、新車供給からハイブリッド車やICE車を排除してはいない。

 そのためドイツの自動車メーカーとっては、欧州委員会の規制を受けるドイツやヨーロッパに経営資源をとどめるよりも、それを中国に移管したほうが、経営の自由度を維持できる可能性が高い。つまるところ、ドイツの自動車メーカーが鮮明にする中国重視の姿勢は、欧州委員会に対する不信感と表裏一体の関係にあると考えられる。