対中デスキリングに背を向けるイタリア

 それに、ドイツの企業以外にも、欧州委員会が描く中国との間でのデスキリング路線に異議を唱えているアクターが、EU内には存在する。具体的には、イタリアの政府である。同国のジョルジャ・メローニ首相は、国内の雇用を維持するため、中国のEV最大手である比亜迪(BYD)にトップセールスを仕掛け、BYDの国内誘致に力を入れている。

 イタリアのメローニ首相は国内の自動車産業での雇用維持に注力しており、2023年7月にはステランティスと、国内で年間100万台の完成車の生産を維持することで合意していた。しかしながら、国外での生産を重視する姿勢を鮮明にするステランティスに不信感を抱いたメローニ首相はBYDに接近し、その誘致に努めるようになったようだ。

 BYDが雇用を生み出すことは結構なことだが、デリスキングの観点からすると、それとは明確に逆行する。モノの生産のみならず、雇用までも中国に依存することになるためだ。とはいえ、国内の雇用を維持し、有権者の支持を繋ぎ止めるためには、メローニ首相はなりふり構っていられない。そのため、メローニ首相はBYD誘致に注力する。

 イタリアは2023年をもって中国が描く拡大経済圏構想である「一帯一路」から離脱したが、このことは、その枠組みからイタリアが得られるものが少なかったために過ぎない。一方で、イタリアは中国との経済関係を引き続き重視している。EUがデリスキングの号令をかけたところで、それがイタリアに響かないのは当然といえよう。