ガスタービン発電機の前を歩くサウジアラムコのエンジニア。COP28では、化石燃料の利用の「段階的廃止」という言葉が盛り込まれることはなかった(写真:AP/アフロ)
  • 12月13日に閉幕したCOP28。合意文書のタイトルは「COP28は化石燃料時代の『終わりの始まり』で合意」という前向きな雰囲気を匂わせているが、実態は妥協の産物で化石燃料の利用削減に踏み込んだ内容とは言えない。
  • 化石燃料の段階的廃止を訴える欧州は化石燃料、とりわけ石炭の利用削減を声高に主張しており、その代替エネルギーとして原子力発電と天然ガスを推している。
  • その中でも「原子力推し」が力を増しており、トレンドになりつつある。脱炭素化を推し進める戦術として、原子力の利用をグローバルスタンダードに押し上げようとするかもしれない。

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 中東の産油国、アラブ首長国連邦(UAE)の首都ドバイで11月30日に開幕した第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)。予定が1日延長されたが、12月13日に閉幕し、合意文書が発表された。そのタイトルは「COP28は化石燃料時代の『終わりの始まり』で合意」と、いかにも前向きな雰囲気を匂わせているが、実態としては妥協の産物だった。

 もともと欧米、特に欧州連合(EU)は合意文書の中に化石燃料の利用の「段階的廃止」を盛り込むように強く要求していた。これに反発したのが、サウジアラビアなど中東を中心とする産油国である。産油国にとっては、石油やガスの輸出はまさに命綱。それを絶たれるようなことが容認できないのは当然だろう。

 その結果、合意文書の草案から化石燃料の「段階的廃止」という文言が削除されたが、EUはこれに強く反発。ウォプケ・フックストラ欧州委員(気候変動対策担当)やCOP28でのEUの交渉人を務めたアイルランドのイーモン・ライアン環境相らは、相次いで合意文書に「廃止」を意味する強い文言を盛り込むよう主張した。

 前々回、英国のグラスゴーで開催されたCOP26において、石炭火力発電や化石燃料に対する補助金の「段階的廃止」に反対し、「段階的縮小」に修正させた中国とインドは今回のCOP28では静観のスタンスを取った。ただ、中国やインドは基本的に欧米が主導する化石燃料の排除の動きには冷ややかであり、距離を置いたままである。

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 脱炭素化には様々な国の利害が絡むため、合意文書の中身はそのタイトルが持つイメージほど化石燃料の利用削減に対して前向きな内容とは言えない。「公正かつ秩序だった公平な方法でエネルギーシステムにおける化石燃料からの脱却を図る」という曖昧な表現がなされたことこそが、合意文書が妥協の産物であることを物語る。

COP28の会場となったドバイのアル・ワスル・ドーム。大勢の人が吸い込まれている(写真:AP/アフロ)
最終的に合意文書が採択されたが、COP28では欧米と産油国の対立が目立った。中央右はCOP28の議長を務めたUAEのスルタン・ジャベル議長。中央左は国連気候変動枠組み条約のサイモン・スティル事務局長(写真:AP/アフロ)