- ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに続くヨーロッパとロシアの対立。その裏で、双方に顔が利くカザフスタンの存在感が高まっている。
- カザフスタンはフランスやドイツとエネルギー関係で協力関係を深める一方、ロシアとは貿易関係で関係を強化している。
- ヨーロッパとロシアの対立で漁夫の利を得るカザフスタンだが、それが続くかどうかはトカエフ大統領がうまく後継指導者に禅譲できるかにかかっている。
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
ウクライナとロシアの戦争が膠着状態に陥る一方で、ヨーロッパとロシアの対立も続いている。こうした状況の下で、ヨーロッパとロシアの双方に顔が利くカザフスタンの存在感が高まっている。
まずヨーロッパとの関係では、脱炭素化に加えて、化石燃料の脱ロシア化を掲げる欧州連合(EU)が、カザフスタンとの連携の強化を図っている。
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例えば、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、11月1日から2日にかけてカザフスタンとウズベキスタンを公式訪問し、双方の指導者と会談を行った。ヨーロッパの電力生産を支えるフランスの原子力発電だが、カザフスタンはその核燃料であるウランの世界最大の生産国であり、ウズベキスタンも世界第5位の生産国である。
かねてより、フランスは原子力産業に注力してきた。2011年の東日本大震災後は、世界的な原発見直しの機運を受け、フランスの原子力産業に対する逆風が強まった。しかし近年は、原子力発電が脱炭素化に適うことから、フランスの原子力産業に追い風が吹いている。またEUが化石燃料の脱ロシア化を掲げたことも、大きな追い風となった。
もともとフランスとカザフスタンの関係は良好であり、両国の国営原子力会社(オラノ社とカザトムプロム社)が合弁企業(カトコ社)を設立し、カザフスタン国内でウランの生産を行ってきた。またフランスとウズベキスタンの関係も良好で、オラノ社はウズベキスタン国営のナボイウラン社とも合弁企業を設立し、ウランの生産に努めている。
報道によると、フランスはカザフスタンとの間で、核燃料サイクル分野での協力の拡大で合意に達した模様だ。カザフスタンとの経済・技術協力関係が進化すれば、フランスは安定的に核燃料を調達することができる。一方のカザフスタンからしても、フランス資本による鉱山開発や技術移転を通じて国の発展を促すことができる。