「AIで英政府は5年間で38兆円を節約できる」

 英シンクタンク、トニー・ブレア研究所は今年5月、「AIを利用して政府の仕事のやり方を変えれば、5年間で2000億ポンド(約38兆円)を節約できる」と提言した。

 ブレア前英首相は「政府の日常業務の多くは大規模な反復可能プロセスだ。より良く、より速く、より安くできる」という。

 公共部門における業務の多くは利用者(市民)への対応、業務管理、政策立案、戦略的意思決定だ。こうした分野ではAIが民間企業に変革をもたらしつつある。しかし政府はAI導入に関して民間企業に大きな後れを取っている。GPT-4モデルを使えば、12%多いタスクを25%速く完了できる。

 採点や授業計画におけるAIを使った実験では教師の作業時間を25%節約し、週末や夜間に働く必要がなくなった。医療分野では退院遅延を35%も削減。NHS(国民保健サービス)病院のベッド稼働率を85%に引き上げ、12時間以上の危険な待ち時間をなくすことができるという。

 開発段階のシステムを導入するのは、富士通が英ポストオフィスに納入した勘定系システム「ホライズン」の欠陥が原因で民間委託郵便局長ら900人以上が冤罪に陥れられた事件を見れば分かるように大きなリスクを伴う。未知のバグやエラーがつきものだからだ。

 先行投資すればいいのか、様子見のアプローチが賢明なのか。血税に無駄遣いは許されない。民間企業の設備投資と違って公共調達は評価が定まってからにした方が良いように筆者には思われるのだが……。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。