大韓航空機事件で北朝鮮による拉致の実態の一端が明らかに

 あの噂はやはり本当だったのか。

 噂はかなり以前からあった。私も高校生の時に友人たちと日本海に面した島にキャンプに行ったことがあるが、「気をつけないと北朝鮮にさらわれるぞ」と言われたのを覚えている。1960年代の話だ。

 1980年には若いカップルの日本海沿岸での行方不明事件について外国情報機関の関与を疑う新聞記事が出た。名指しこそしないが、ここで言う外国とは北朝鮮のことだろう、と誰もが思った。

 それについては参議院で質問もされている。横田さんも「もしかしたら……」と相談に行ったというが、当時は雲をつかむ様な話で情報などは何もない。北朝鮮は国交のない近くて遠い国だ。

 その北朝鮮が我々を驚愕させたのは1987年11月に起きた「大韓航空機爆破事件」だった。この事件は北朝鮮の工作員2人が日本人の父と娘だと偽って大韓航空機に搭乗し爆弾を仕掛けてインド洋上で機体を墜落させたというテロ事件だが、工作員が流暢な日本語を話し日本のパスポートで搭乗していたことから、この事件は意外な波紋を広げていく。

 生き残った女性工作員は「蜂谷真由美」と名乗っていたが、その供述から本名は「金賢姫」という北朝鮮の工作員であること、そして本国で日本から拉致してきた「李恩恵」という女性に日本人らしさを習っていたことなどが判ってくると、「李恩恵」さん探しが始まると共に北朝鮮による日本人拉致の問題がクローズアップされるようになった。

 過去に全国で起きた謎の失踪事件は北朝鮮による拉致かもしれない。マスコミの報道も「李恩恵」をキーワードに熱を帯びてきた。政府も一連の失踪事件は北朝鮮による拉致の疑いが濃厚との認識を示した。