ただし、非常にセンシティブな問題があるために被害者の実名は公表されなかった。また、この時点では「横田めぐみ」という少女の失踪と北朝鮮を結びつける情報もなかった。

 我々がめぐみさんのことを知るのは、前述の1997年初頭のことだ。北朝鮮による拉致問題が騒がれてからさらに10年近い年月が経過していた。

家族の孤独な戦い

 我々も驚いたが、北朝鮮による拉致だと知らされためぐみさんの両親の驚きと苦痛は想像を絶する。娘が生きていたという安堵と共に、どんなにか辛かっただろうという胸を切り裂かれるような痛みを感じたことだろう。

 その痛みを胸に、2人は実名を公表し、めぐみさんの救出に全精力を注ぐ決意をする。

 他の拉致被害者家族と家族会を立ち上げてその代表となり、記者会見、街頭での署名集め、各機関や政治家への陳情と休む暇もない生活が始まったのだ。

横田さん夫妻はめぐみさんの救出を願い、全国各地で開かれる集会に駆け付けた(写真:橋本 昇)
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 滋さんも早紀江さんもすでに還暦を過ぎていたが、幾度か取材で会った2人の姿からは「娘を何としても取り戻す」という気迫を感じたものだ。一向に進展の見えない状況にじりじりしながらも、マスコミのインタビューに丁寧に答えていた姿も印象深い。