ソウル五輪開催を阻止するための工作

 頑なに正体を明かさなかった彼女が聴収に応じるようになったのは、それからほどなくしてのことだった。それにより、「蜂谷真由美」が「金賢姫」という25歳の北朝鮮の工作員であること、金正日の命令で同じく工作員の「金勝一」と大韓航空機に爆破装置を仕掛けたことなどが明らかになった。

大韓航空を代表してパイロットとCAが犠牲者を追悼するメッセージを読んだ(写真:橋本 昇)
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悲嘆にくれる犠牲者の家族たち(写真:橋本 昇)
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大韓航空社員や犠牲者の家族は金正日を糾弾する声を上げた(写真:橋本 昇)
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 そして大韓航空機爆破の目的は翌年に迫ったソウルオリンピックの開催を阻止するためだったという。

 金賢姫があっさりと自供し転向したのは、ソウルの繫華街を見てそれまで北朝鮮で教え込まれていたことが噓だったと気づいたからだというが、彼女の心の動揺、葛藤を他が推し量ることはできない。外交官の娘でありエリートとして純粋培養された彼女は、自分の罪、ひいては自国の罪とどう向き合ったのだろうか。

 ソウルの人々の感情も複雑ではあった。韓国の人々にとって北朝鮮は同胞の国だ。だからこそショックは大きい。「金賢姫は死刑だ。115人もの人間の命を奪ったんだから当然だ」という意見が大半を占めたが、「悪いのは金正日だ。あいつは大バカ者だ。金賢姫もある意味では犠牲者なのかもしれない」と冷静に語る人もいた。