中東からソウルに向かっていた大韓航空858便が突如として消息を絶ったのだ。乗客乗員合わせて115名、乗客のほとんどは中東への出稼ぎから帰国する韓国人だったという。

「蜂谷真一」と「蜂谷真由美」

 当初は何らかの原因による墜落事故かと思われたが、墜落前に当該機から降りた不審な男女2人連れの存在が浮かび上がるや事態は一気に変わっていった。2人は身柄を拘束されて服毒自殺を図った。ただ男は死んだが、女は生き残ったという。

 2人は日本人の父と娘だと名乗り日本のパスポートを持っていたが、それが偽造パスポートであることも分かった。858便の墜落は爆破テロの疑いが濃厚になった。

 その2人の名前「蜂谷真一」と「蜂谷真由美」が大きく報じられると、韓国はもちろん日本でも大騒ぎとなった。

 2人の正体は? 誰が何のためにテロを計画したのか? 北朝鮮の関与が疑われたが、生き残った女は口を割らない。真相究明に注目が集まる中、色々な憶測も流れた。

 その自称「蜂谷真由美」が韓国に護送されて来たのは、大統領選挙の投票日が翌日に迫った12月15日のことだった。大統領選挙の取材に飛び回っていたカメラマンたちもその日は金浦空港に詰めかけ、到着を待ち構えた。

 特別便が到着し、安全企画部の男女に両方から抱えられて「蜂谷真由美」はタラップを降りてきた。その憔悴した姿はとてもテロの実行犯とは思えないほど弱々しく、自殺防止のために付けられたマウスピースが痛々しいという印象を与えた。

アブダビからソウルへ護送されタラップを降りる金賢姫容疑者(写真:橋本 昇)
拡大画像表示

 隣に陣取っていたカメラマンが「美人だなあ」と呟いていた。確かに「蜂谷真由美」はどう見ても「普通のお嬢さん」という感じだった。