承継を検討することなく廃業

 まずは、廃業する前に事業承継を検討したかをみていこう。後継者の検討状況は、「後継者を探すことなく事業をやめた」が95.9%を占めており、「後継者は決まっていたが事情により承継できなくなった」(1.1%)、「後継者にしたい人はいたが承諾してくれなかった」(0.4%)、「後継者にふさわしい人を探したが見つからなかった」(2.6%)はわずかである。

 後継者を探さなかった理由は、「そもそも誰かに継いでもらいたいと思っていなかった」(55.0%)、「事業に将来性がなかった」(21.5%)の順に多く、後継者難に該当する選択肢は、比較的多いものでも「子どもに継ぐ意思がなかった」の8.5%にとどまる(図1)。

 はじめから承継を検討することなく廃業していく企業が少なくない。


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 承継を検討しなかった理由は何だろうか。誰かに継いでもらいたいと思っていなかった理由を複数回答で尋ねた結果をみると、「自分の趣味で始めた事業だから」の割合が30.1%と最も高く、次いで「個人の免許・資格が必要な事業だから」(25.9%)、「高度な技術・技能が求められる事業だから」(23.8%)、「経営者個人の感性・個性が欠かせない事業だから」(17.5%)となっている(図2)。

 趣味や技能、感性といった属人的な要素と固く結びついている事業だから、自分が引退するならば廃業するのが自然なことだと考えたようだ。


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 ただし、企業には、経営者のみならず従業員や販売先・仕入先など、さまざまなステークホルダーがかかわっている。廃業に当たっては、そうした関係者や地域経済への悪影響を最小限にとどめることが必要である。

 以下では、引退に伴う廃業で生じる問題について、いくつかの観点から確認していこう。