(山中 俊之:著述家/国際公共政策博士)
アート、ワイン、グルメ、ファッション……。イタリアというと、日本人の間で、旅行先として人気が高い。一方で、たびたび首相が変わる政治的不安定さ、財政危機、マフィアの暗躍などネガティブなイメージもある。
欧州の大都市の中でも、ローマは特にスリが多いことで有名だ。近年では、2022年に、当時は反EUで、右派ポピュリストとも評されたメローニ氏が首相に就任したことに懸念を持つ人も多い(就任後は反EUの主張などは穏健化していると言われる)。
イタリアほど、プラスとマイナスの両方のイメージを持たれる国も少ないのではないか。
筆者は、7月にイタリアのローマ、ナポリ、シチリア等を訪問して、現地で有識者との会合を持つ機会も得た。それらを踏まえて、本稿ではイタリアの地政学的位置、歴史や文化、国民性等からアフリカをはじめとしたグローバルサウスとの関係でのハブになりうる可能性について考えたい。
「ここはアフリカか」と思ってしまう多文化の街
「アフリカ系の人が多いな」
ナポリの中心街を歩いた時の印象である。正確な人数は不明であるが、アフリカ系の在住者は相当多いと推測される。
その理由は、ナポリが地理的に南イタリアに位置し、アフリカからの移民が欧州に到着する際の一つの主要な玄関口となっているためだ。結果として、強固なアフリカ系コミュニティが存在するようだ。
即興的かつ柔軟に対応することが得意とも言われるナポリ人の特性は、アフリカ人と合うと思われる。街を歩いていると、思わず「ここはアフリカか」と思ってしまうほどだ。
イタリア半島の南端の先にあるシチリア島の中心都市パレルモにも行った。
シチリアは、ギリシャ、カルタゴ、ローマ、アラブ、神聖ローマ帝国、フランス、スペインなど多様な国・勢力の支配を受けてきた。モスクに似た教会やアラブ風の装飾品等の店が多いなど、重層的な文化が魅力的な街である。
シチリア人は、ホスピタリティが豊かと言われる。このような文化の多層性が、他者を受け入れるホスピタリティを育んだと思う。
イタリア人はこだわりが少なく、柔軟性・寛大性に富むと言われる。その中でも多文化を受け入れるナポリやシチリアは、イタリア人の特徴である柔軟性・寛大性を特に兼ね備えた魅力的な都市であると感じた。