ロックフェラーセンターから見下ろす米ニューヨーク・マンハッタンのビル群。オフィスビルの空室増が世界経済に影を落とす(写真:hoyano/イメージマート)ロックフェラーセンターから見下ろす米ニューヨーク・マンハッタンのビル群。オフィスビルの空室増が世界経済に影を落とす(写真:hoyano/イメージマート)
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(牧野 知弘:オラガ総研代表、不動産事業プロデューサー)

外資マネーの手じまいが目立つ国内不動産マーケット

 7月31日、日本銀行は金融政策決定会合で政策金利の引き上げを決めた。

 この利上げは、株価下落にかこつけてタイミングが悪いなど散々な評価を受けたが、なんとか日本にも「金利のある」正常な世界に戻す動きがでたことは評価してしかるべきだろう。

 いっぽうで日本銀行の政策金利引き上げはたとえその幅が小幅であっても、不動産マーケットに与える影響は軽微なものではない。国内不動産はいまや外資マネーの存在を抜きには語れないからだ。

 東京都心部のタワマンなどの超高額マンションの買い手には多くの外国人投資家の姿が目立つ。

 都心オフィスビル、賃貸レジデンス、ホテル、ロジ(倉庫)などには大量の外資マネーが流入。本国の年金基金などを投資資金に持つファンドは、バルク買いという、複数物件をまとめて取得する荒っぽい手法で次々に日本の不動産、あるいはあまり報道されていないが日本の会社を買収(M&A)している。

 ここにきて米国ではフェデラルファンドレートを引き下げるのではないかという期待が盛り上がっている。国内失業率が予想と異なり上昇する、消費者物価指数が思ったほどの上昇を見せなかった、極端なドル高の是正などこれまでのインフレ退治的な対応が変わる可能性に期待を寄せているのだ。

 7月末の政策決定会合では利下げは見送られたものの、9月には実施されるのではないかという見方が有力だ。

 こうした両国の動きは日米間の金利格差の是正につながり、円高を誘発する。輸出型企業にとっては嬉しくない変化であるが、現代日本は輸入大国。食料自給率が38%(カロリーベース)に留まり、多くを輸入に頼る、エネルギーに至っては原子力発電が復活しないことにはほとんどが輸入という構図は生活者の困窮を招く。

 円高は昔のように必ずしも悪い出来事ではないのだ。

 日本の不動産マーケットにも影響が出そうだ。元気に動いていた外資マネーが、日本の金利上昇を見越して、マーケットで一旦手じまいする可能性が高まっているからだ。

 都心を中心に不動産は大規模金融緩和の追い風も受けて高い上昇を示してきた。キャップレートは下がる一方で都心優良案件であれば2%台でも商談になるという状況にあった。

 だが、金利上昇はキャップレートでの鞘取り(アービトラージ)を狙う投資家にとってはナーバスにならざるを得ない事象だ。「場が変わった」などと表現されるが、舞台が暗転する可能性を見込んで早めに売却して自国通貨に換え、投資する手を休める可能性が出てきているのだ。

 そして日本の不動産マーケットにとって見逃せないのが米国商業用不動産の動向だ。

 商業用というのは英語のコマーシャルの訳だ。日本ではコマーシャル=商業と訳してしまうが、この場合のコマーシャルには商業施設のみならず、オフィス、賃貸レジデンス、ホテル、物流などあらゆる賃貸不動産が含まれている。そのマーケットに異変が起きているのである。