開場から100年の甲子園球場で開催されてきた第106回全国高校野球選手権大会(写真:共同通信社)

 8月23日に決勝戦を迎えた夏の甲子園。地方予選を突破し、連日熱戦を繰り広げてきた各校の出場選手は野球エリートの集まりだ。

 高校野球の現状を俯瞰してみよう。高野連加入校は3798校、部員数は12万7031人(2024年)に上るがいずれも減少が続いており、部員数は10年で約4万3300人減った。背景には地方、特に公立高校での「野球離れ」があるとされる。

 公立高校の野球部を支えてきたのは「365日・夜8時まで」といった“ブラック”な部員の練習活動と教員の労働環境だ。丸刈りや長時間練習、根性論が「悪」とされる最近の風潮の中、現場の監督は現状をどう捉えているのか。

 実態を確かめるべく、キャリアの長い地方の監督に会いに行った。高校球児を教えて約40年にもなる、奈良県立高田高等学校野球部監督の田渕太・体育教師(63歳)。2024年7月には「育成功労賞」*1を受賞した、 “典型的”な地方公立校のベテラン監督だ。

(湯浅大輝:フリージャーナリスト)

*1:育成功労賞:日本高校野球連盟と朝日新聞社が、20年以上にわたって高校野球の育成と発展に貢献した指導者を表彰する賞。毎年、各都道府県から1〜2人程度が選ばれている。

「丸刈り」強制してなくても、念のため「長髪OK」に

──田渕さんは約40年間、高校野球の指導をされています。近年は丸坊主の強制に対する反発や「根性論」をベースにした長時間練習の見直しなど、変化の波が押し寄せてきていますが、高田高校ではどのように対応しているのですか。

田渕太氏(以下、敬称略):時代も変わってきているので、指導者の側から考え方を変えていかないといけないと思いますよ。

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 ウチの野球部でも3~4年前にキャプテンを呼んで「お前ら(髪の毛)どうする?」って聞きました。その時は「丸刈りでいきます」って言うてました。

田渕 太(たぶち・ふとし) 奈良県立高田高等学校野球部監督 1979年、奈良県立高田高校卒業。現役時代のポジションは遊撃手。大阪体育大学に進学後、84年に山辺高山添分校に赴任し、未経験の生徒を集めて軟式野球部を作った。広陵高校野球部の責任教師を経て、2008年に高田高校に赴任。野球部の責任教師を務めた後、2014年に監督に就任、現職。

 それまでも丸刈りを強制したことはないけど、校則の見直しなども考えていく中で今後の流れとして「自由」ということになっていきました。先手を打った形ですね。

 もうひとつは、練習時間の短縮と休養日の確保。平日は夜の8時くらいまで、土日は1日中練習するのが当たり前やった。これも3〜4年前から徐々に「週1日以上の休み、平日は19時」を目安に、土日も練習試合以外は半日で終わることも。

──練習時間の短縮に関しては、野球部が単独で判断したのですか?

田渕:中学校でも、部活動の休養日を設定されてきているので、高校もそれにあわせていくべきだろうと、休みを積極的に取るようにしました。

──練習時間が短くなると、技術の習得が難しくなるのでは?

田渕:やりたいことを全部やっているといくら時間があっても足りない。どれだけ意識を高く持って取り組むかによって成果は変わってくると思う。これまで長時間練習していた時よりもさらに、効率的におこなうことによってカバーしていけると考えている。

 今は、なるべく生徒たちが「もっと練習したい」と思うようなところで(練習を)切り上げるようにしている。そう思えばひとつひとつの練習も、より積極的に行うでしょうし、自分で考えて短い練習時間で最大の効果を得ようと工夫するようになる。

──ここからは、高校野球全体に関する質問をしたいと思います。近年は、小〜中学校からの育成選抜が進み、高校野球は「野球部に予算を潤沢につけられる強豪校」と「甲子園出場のチャンスはほとんどない普通の高校」に二極化している印象があります。地方の公立校のような“普通の高校”では入部してくる部員のレベルが落ちているようなことはないのでしょうか。