2023年にWHO(世界保健機関)が発表した世界保健統計で、日本は平均寿命、健康寿命ともに世界ランキング1位となった。健康寿命が今後、延びていくことを前提にするならば、生活する時間も、働くことが必要な時間も長くなる。
高齢者の定義年令引き上げ検討のニュースもあり、定年後も積極的に働かざるを得ない時代はそこまで来ているが、AIの台頭でなくなる仕事も増えると言われており、ことはそう簡単ではない。定年後の雇用機会とAIリストラへの対策をどう考えればいいのか。リスキリングの第一人者の見方とは──。
※この記事は、『中高年リスキリング これからも必要とされる働き方を手にいれる』(朝日新書)より一部抜粋・編集したものです
6年前の予測が現実となった技術的失業
新型コロナウイルス感染症の広がりの中でも経済活動を維持するための取り組みとして、日本でもデジタル技術の活用が進みました。生産性を上げ、より便利な生活や仕事環境を手にいれる上でも、デジタル技術は欠かせないものとなっています。
一方で、デジタル技術が浸透すればするほど、課題も比例して大きくなっていきます。それが、「技術的失業」に関する問題です。
2013年9月にオックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授(当時)らが論文「The Future of Employment」で「今後10年から20年の間に米国の総雇用者の約47%の仕事が自動化され消失するリスクが高い」という衝撃的な推定を発表しました。
それ以来、「技術的失業」と呼ばれる、テクノロジーの導入によりオートメーション化が加速し、人間の雇用が失われる社会的課題についての議論が欧米では活発になりました。
テクノロジーが浸透して世の中が便利になる一方で、人間の労働の自動化が進むことで、AIやロボットに人間の雇用が代替される未来が予見されるようになってきたためです。
2017年2月に「MIT Technology Review」に掲載された記事では、世界最大級の投資銀行であるゴールドマン・サックスが金融取引の自動化を進め、最盛期の2000年には600名いたニューヨーク本社の株式のトレーダーは2名となり、全社員の3分の1がエンジニアになったことが紹介されました。
このニュースは実際に起きた技術的失業のシンボリックな出来事として話題になったことを覚えています。
もちろん、日本でもこの技術的失業については一時期取り上げられましたが、デジタル化が進まなかった日本においては真剣な議論にならず、いつしか忘れ去られてしまった感がありました。
ところが、それから6年が経過した2023年には、ChatGPTを中心とした生成AIの利用が本格化しました。そして、ChatGPTが、人間の質問に対して、ときに期待を上回る回答をしていく衝撃に、ついに日本でもこの技術的失業に関する議論が再燃し始めたように思います。