経済コラムニスト、故大江英樹氏が2018年に出版した『定年3.0』(日経BP)。この書籍では、平均寿命も短く年金でのんびり「余生」を送れた「定年1.0」の時代、年金制度が見直されて「老後資金」が悩みの種になった「定年2.0」の時代を過ぎ、「お金」はもちろん「健康」と「孤独」の3つを誰もが考えなければならなくなった「定年3.0」の時代に移行していると説いた。
そんな「定年3.0」から「定年4.0」にシフトしていると提唱するのが、リスキリングに特化した非営利団体、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表を務める後藤宗明氏である。「定年4.0」時代を生きるビジネスパーソンの定年後雇用機会の現状と、AIリストラへの対策とは。
※前編「いよいよ日本でも「AI失業」、自動化に直面するフルタイムワークは全世界で3億人分の恐怖」
※中編「スキルが新たな「貨幣」に、ジョブ型からスキルベースに移行する雇用市場にどう対応するか?」
※この記事は、『中高年リスキリング これからも必要とされる働き方を手にいれる』(朝日新書)より一部抜粋・編集したものです。
AI時代に求められる「学際的スキル」とは
「定年4.0」の時代の前提には、AIの進化があります。これから訪れるのは、AIと一緒に働く時代です。その事実をふまえ、リスキリングに取り組む際に、ぜひ取り入れていただきたいのが「学際的スキル」という考え方です。
「学際的」とは、英語の「interdisciplinary」という言葉が元になっていて、「複数の異なる専門分野にまたがる、分野の垣根を越えた」という意味です。ビジネスの世界における「学際的スキル(interdisciplinary skills)」を一言でまとめると、次のようになります。
学際的スキルとは、「複雑な問題を解決し、新たな洞察を生み出し、イノベーションを起こすために、2つ以上の異なる分野の知識を統合し、応用する技術のこと」
当然のことながら、この学際的スキルは、短期的に培われるものではありません。自身がこれまで所属してきた組織の業種、職種などを通じて得てきた知識、経験、スキルなどをベースに、リスキリングを通じて新しいスキルを足していく、場合によっては掛け合わせていくことが必要になってくるということです。
AIは一つの分野を深化させていくことは得意ですが、複数の分野の知識を結びつけて現時点で存在していない考え方や知識を作り出すのは不得意です。人間ならできる独自に考えついたり、応用したりといったことができるレベルには、現時点で到達していません。
だからこそ、AIが提供する価値とは異なる価値を人間が提供していこうと考えたときに、この「学際的スキル」が重要となってきます。
AIによって、事務作業を中心とした役割はどんどん自動化されていきます。私たちは、事務作業として自動化できない領域、すなわち、いまだ解決に至っていない社会課題そのものを明確化する、新たな解決策を模索し構築するといった仕事を担っていく必要があります。
私たち人間は、「問いを立てる力」を強化する必要があり、未解決の課題を解決していくために複数の視点や経験から培われるスキルを持つことがより一層重要になっていくということです。
ここからは、具体例として、私がリスキリングに取り組む中で、結果的に「学際的スキル」が鍛えられることになった過程をご説明していきます。